私の愛するとらネコ「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が・・・

そうなんです。私は昼間は「レインボー塾」の先生として、夜になると、とらネコの「マダムM」として、ネコの仲間達と一緒に過ごす毎日を送っているのです。

レインボー塾に通ってくる子ども達は、色々な悩みをもっています。

翔太の悩みは、「生きていくのがしんどい」です。

翔太は小学5年生です。1年生の頃からレインボー塾に来ていました。1年生にしては大柄で、ぽちゃぽちゃとした身体つきだったけど、それがそのまま大きくなった感じです。えっ?私と同じですって?まあそう言えないこともないか・・・

「残念な生き物事典」とか「動物の親子図鑑」などが好きで、本の内容をすぐに覚えて話してくれます。それはもう、楽しげに延々と話し続けます。

そんな翔太を夜に見かけたのは、「海が見える公園」(そのまんまのネーミングです)のベンチでした。

「海が見える公園」は小高い丘の上にあって、名前の通り海が見えます。

それほど広い公園ではありません。木々が茂り、細い小道を歩いていくと広場があって、休日などは親子連れが、ピクニックをしたり、バトミントンやドッジボールをしたりして楽しめる場所です。私の天敵の犬を走らせている家族もいます。何故犬はあんなに無邪気に走り回るのか理解に苦しむわ!

坂を登っていくと、海が見えるベンチに着きます。今日の海は穏やかで、月の光が水面に映って、キラキラ輝いています。遠くに大型の船がゆっくり進んでいました。時々灯台のサーチライトが暗い海を照らしているのが見えます。

私は海が大好きで、いつもこの公園にお散歩に来ます。公園の駐車場がネコ達の集会所です。

今日もいつものメンバーが集まっていました。公園付近のネコ達は住宅街で暮らしているネコが多く、港のネコは野良が多いです。でも、中には最近飼い猫から野良猫の仲間入りを余儀なくされたネコもいます。

駐車場に行ってみると、「ギブ」が「ミーシャ」に食べ物の探し方をレクチャーしていました。

雑種の「ギブ」はいつも何かを探している野良猫です。目つきが鋭くて、何事も見逃しません。小さい頃から自分の力で生き延びてきた逞しさがあります。ちょっと世の中を斜めに見ているところがあって、皮肉も上手です。「人を見たら疑ってかかれ」が彼のモットーです。よっぽど辛い目にあってきたんでしょうね。

マンチカン崩れの「ミーシャ」は、まだ若くてとっても可愛いネコです。世間の荒波に揉まれることなく、深窓の令嬢として過ごしてきましたが、飼っていた老婦人が亡くなったので、今は「ギブ」の手ほどきを受けながら野良猫ニャン生を歩き始めています。

「ほら、そこに車の中からポイ捨てした、ポテトがあるだろ?あれはうまいけどたくさん食べたらダメだ。気持ち悪くなる」とギブがミーシャに教えています。ミーシャはお腹が空いているのか、ムシャムシャ食べています。

それを見ていた黒猫の「シャドー」が、「ハンバーガーの肉を残すなんてもったいないなあ。ミーシャこっちを食べた方が栄養になるよ。」と、肉の塊をミーシャに差し出しました。

黒猫の「シャドー」は、シャープな身ごなしでジャンプも得意です。ハンサムな上にかっこいいなんて、モテないわけがありません。私にマイダーリンがいなかったら・・・そんなわけないか!

ほらほら、そんなにガッついていると、喉を詰まらせるよ。噴水の水でも飲んでゆっくり食べな。」優しい「たま姉さんが」が言いました。公園の噴水にはいつでも新鮮な水が流れています。

三毛猫の「たま姉さん」はこの付近で長く暮らしているネコで、私の古くからの友達です。「たま姉さん」は、色々なことを知っていて、情報通です。ネットワークが半端ないぐらい広くて、隣町や遠くの街のことまで知っています。それに世話好きで気に入ったネコにはトコトン親切です。

駐車場の外の歩道から私が近づいて行くと、

「あれ、マダムMじゃないか。久しぶりだね。どうしてた?」と「たま姉さん」が声をかけてきました。

「そうね、久しぶり!チョッと旅に出ていたからね。たま姉さんはいつも元気そうね。みんなも元気だった?」と私はみんなを見回しながら言いました。

「よお!相変わらず・・・」

「相変わらず何?」

「そうだな。元気そうで良かったよ。」ギブは言葉を濁しながら目をそらせました。

「相変わらずふくよかって言いたかったんでしょ。」私はチョッとむくれて言いました。そりゃあそうでしょ。会う人じゃなかったネコみんなに「太っちょ」とか「デブネコ」とか言われるのは良い加減うんざり。

「そこがマダムMらしくて良いよ。貫禄があって。」シャドーが近づきながら言いました。本当にカッコイイ。言うことも素晴らしいって、「貫禄があって」って褒め言葉じゃないよね。

「ありがとう!ミーシャも元気そうで良かったわ。前より逞しくなった気がする。前はよく泣いていたもんね。」と私が言うと

「そりゃあそうだよ。ギブが付きっきりで教えてあげてるんだから。野良猫の極意をね。もう立派に野良猫稼業が板についてきたよ。」とたま姉さん。

「まだまだだが、俺が付いているから心配ないよ。」ギブは得意そうに言いました。

「さすが、ギブだね。頼もしいねえ。」と私はギブの頭に頭を擦り付けながら言いました。

「へへっ!」とギブは照れ臭そうに笑いました。

「ところで、翔太って知ってるかい?」と、たま姉さんが聞いてきました。

「翔太ならレインボー塾に通っている子だから知ってるわ。」

「多分翔太だと思うんだけど、チョッとぽっちゃりした大きい子でしょ。目が細くて唇がキュートな子。」唇がキュートかどうかはわからないけど、外見は似てるようです。

「その子だと思うけど、どうしたの?」

「随分前から、海が見えるベンチに座っているよ。何かを思いつめているようで少し心配だったんだ。様子を見に行ったら?」とたま姉さんが本当に心配そうに言いました。

「そうなの。ありがとう、たま姉さん。」と言って私が歩きかけると、

「あの子、学校でいじめられているんじゃないかな?学校の門を駆け足で通り抜けている姿を見たって言うネコがいたよ。」たま姉さんが教えてくれました。

「さすが!たま姉さん。情報通ね。そう言えば前に、学校に行きたくないって言ってたわ。ありがとう。」

私が走り始めると

「おい、その身体で走ったら転ぶぞ!気をつけて行きな。」とギブが言いました。

全く大きなお世話よ。ふくよかだって走ることはできるわよ。少し遅いしハアハア言ってるけどね。全く何で犬は走るのが好きなんだろう。気がしれないわ。

ハアハア、ハアハア、足がつりそうになりながら、頑張って坂を登って行きました。月の光が木々の間から木漏れ日のように差し込んでいます。あともう少しでベンチのあるボードウォークに着きます。あとひと頑張り!

翔太はベンチに座って海を眺めていました。横にはリュックサックが置いてあります。翔太のお気に入りの黄色いリュックサックです。きっと「残念な生き物」の本も入っているでしょう。

私は呼吸を整えて、少しずつ翔太が座っているベンチに近づきました。

しばらく隣のベンチの下でうずくまって休憩をしていました。だって、走ったのよ!翔太が心配で。この頃走ることなんて全然ないのに、いきなり走ったものだから、息は切れるし、心臓ばくばくだし、足はつりそうだし・・・まあ明らかに体重過多と運動不足は否めないけどね。とほほ・・

ペロペロと手や足の裏の肉球を舐めていると、

「あれ、随分ぶっといネコがいるなあ。お前何してるの?」

ぶっといですって?あなただけには言われたくないわ。同じような身体つきなのに、人のこと言える?フン

私がむくれて、手で顔を撫でていると、翔太が近づいて来ました。ベンチの下に膝をついて、そーっと手を差し伸べてきます。

シャーッと引っ掻くこともできますが、そこは優しいマダムMです。ニャーと言って、手のひらをペロペロ舐めました。さらに奮発して、翔太の手首に頭を擦り付けて、ゴロゴロ盛大に喉を鳴らしました。

「そうか、お前俺に会えて嬉しいんだな。」翔太は嬉しそうに笑って、私を抱き上げました。

「それにしても、お前重いなあ。抱っこするの大変だよ。」そんなことないでしょ。あなたも巨体なんだから、軽々抱いているじゃない。ニャーン

翔太はベンチに座って、膝の上に私を乗せました。ジーンズが少しチクチクしたけど、パーカーの上は居心地が良いです。ゴロゴロゴロゴロと良い気分を伝えました。

「海が好きか?俺は好きなんだ。海を見ていると気持ちが落ち着く。嫌なこともしばらく忘れられる気がするんだ。」

翔太はポツポツ話し始めました。ニャニャーン

「今すごく辛い。6年生の子が俺のことを「キモい」って言うんだ。俺こんな風だから、自分でもイケテナイと思うけど、「キモい」はないだろう。」

翔太は、私の背中を撫でながら言いました。声が震えています。私は翔太の気持ちがよくわかります。「キモい」なんて人を傷つける言葉でしょう。「気持ち悪い」を略している言葉です。自分が言われたら、立ち直れないわ。

「『そんなこと気にしないで。』と母ちゃんは言うけど、気になるよ。6年生の何人かが、かたまっていて、俺が通るとみんなで『キモい』『通るな』とひそひそ声で囁くんだ。先生には聞こえないし、周りの人も知らん顔で行き過ぎてしまう。俺にしか伝わらないようにしているんだ。」

ヒドイ!そんなことを毎日されていたら、学校に行きたくないのは仕方がないよね。でも、親を心配させたくないから、我慢して学校に行っているんだよね。辛いねえ。悲しいねえ。悔しいねえ。ニャーんニャーんニャン

「お前わかるの?」翔太は私の首筋を撫でながら言いました。そこは私が最も気持ちの良いところよ。もっと撫でて!ゴロゴロ、ゴロゴロって、楽しんでいる場合じゃないわ。事は深刻よ!

「運動会の時、組み立て体操で6年生と一緒だったんだ。俺身体が大きいから当然土台で、膝を付いて下になっていたんだけど、崩れちゃってさ。6年生を落っことしてしまったんだ。その子は腕を骨折してさ。ワザとじゃなかったんだ。重くてさ、支えきれなかったんだよ。」

翔太は俯いてボソボソ話し出しました。

わかるよ!身体は大きくても、筋力がないもんねえ。支えられるはずがないじゃない。そりゃあ崩れるわ。翔太のせいじゃないよ。ニャニャオウン!

「それから、あいつの取り巻きみたいな友達が俺を見るたびに言ってくるんだ。運動会なんて大っ嫌いだ。何で出ないといけないんだ!」

ごもっとも。小学校では、運動会が一大イベントになっているからねえ。無理なことも、根性で乗り越えろ!なんて、スポ根精神で頑張らせるから、運動の苦手な子にとっては地獄だね。レインボー塾には運動会嫌いが沢山います。

翔太は今度は私の顎の下をくすぐるように撫でました。うーん、気持ちいい!ゴロゴロゴロゴロ。ニャウン!もっともっと撫でて!

「俺、運動も嫌いだけど、音楽も嫌いだ。うるさくて堪らない。今度音楽会があって、それも嫌なんだ。」

そうだよね。音に敏感な翔太にとっては、音楽会の練習は苦痛でしかないよね。おまけにリコーダーは指がうまく動かないから弾けないしね。音楽なんて大人になったら好きな人しかやっていないけど、子どもの時は授業があるから、好むと好まざるに関わらず参加しないといけないものね。ニャーんニャン

「俺テストはよくできるんだよね、自慢じゃないけど。でも漢字を正確に書けないから、漢字テストだけは0点ばっかり。漢字は覚えているのに、書けないんだ。先生は『もっと丁寧に書いたら100点なのに。」って言うけど、丁寧に書いたつもりでも、字が乱雑になっちゃうんだ。悔しいよ!」

本当に気の毒。手先が不器用だから、字を書こうとしても、マスに入らないし、目と手の協応がうまくできないから、字の形を正しく書けないんだよね。自分では一生懸命書いているのに、できた字は自分の思っている字の形じゃないんでしょうね。かわいそうに。ニャーんニャーんニャンニャンニャオーン

「お前気持ちが良いの?俺のこと好きなの?」

ニャーんゴロゴロニャーんゴロゴロ!大好きだよ。

「誰も俺のことなんか好きじゃないんだ。友達も1人もいないし、先生は俺のことなんか全然わかってくれない。父ちゃんも母ちゃんも弟のことばかり可愛がって、俺の気持ちなんか気にしてないんだ。誰も俺のことなんか・・・」

翔太は私を撫でながら、遠くの海を見ていました。一人ぼっちで孤独を噛み締めているようです。私は頭を翔太のお腹にくっつけて丸くなりました。少しでも翔太の悲しみが消えるように・・・そうやって1人と1匹は海を見ていました。

ボーッ遠くから汽笛の音が聞こえてきます。月の光に照らされた海はとても神秘的です。どのぐらい時間がたったのでしょう。

翔太が私を抱き上げました。翔太の胸はふわふわして気持ちがいいです。思わずゴロニャーンしたくなります。

「俺さ、生きていくのがしんどい。こんな俺なんかいなくなっても、誰も気がつかないんじゃないかな。消えてしまいたいよ。」

ちょっと待ってくださいよ!ゴロゴロニャーンをしている場合じゃないわ。ダメよ。翔太が居なくなったら、少なくとも私は困る。悲しむ。辛い。ニャーニャー、ニャオーン。それに翔太の親だって家族だって、悲しむよ。ニャニャん

「でもさ、ぶっといネコちゃん。お前が居てくれたから、ちょっと元気が出たよ。お前のニャオーンには励まされた感じ。言いたいこといっぱい言えたし、お前は聞き上手だから、何も批判しないしな。頑張ればできるよって言わないし。自己中だって言わないもんな。俺いつも自分勝手だって言われるんだ。」

そんなあ。でも、翔太のような感覚が過敏な子どもは、教室のガヤガヤする音や、先生の怒鳴り声(他の子が注意されている場合でも)、違う楽器が同時に鳴っていることなどは、耐えられない音量になってしまうんでしょう。教室の外に飛び出して、静けさを求めていても、周りの人からすると、勝手に授業を抜け出している自分勝手な子だと思われてしまう。ニャニャーン

翔太の暖かい胸は気持ちが良くて、ついついウトウトと居眠りを・・・

「ぶっといネコちゃん、そろそろ帰ろうか?眠たいのはわかるけど、もう遅いからね。」えーっ!翔太が苦しんでいるこんなシリアスな場面で、私寝てたの?信じられないわ。自分の行動が!ごめん翔太

翔太はお気に入りの黄色いリュックサックを背負って私を抱きながら立ち上がりました。それでもすぐには歩き出さずに、じーっと海を見つめながら静かに佇んでいました。

しばらくして、翔太は私を抱きながら、坂道を下って行きました。

「お前本当に重いなあ。坂道だから転びそうだよ。」

ひどいじゃない!あなたが心配だから、この坂道をハアハア言いながら走って来たのよ私は!それなのに、重いですって?まあ事実だから仕方ないか。

駐車場に戻ると、黄色の車が止まっていました。翔太のお父さんの車です。

「翔太、やっぱりここに居たか。心配したぞ。」お父さんが車を降りながら言いました。

「あれ?このぶっといネコはどうした?」

チョッと、お父さんまで「ぶっといネコ」って言った?ひどい親子ね。

「海が見えるベンチで、出会ったんだ。俺のこと好きみたい。」

翔太は少し照れながら、私をお父さんに見せました。ニャーん

「どうやらそうみたいだな。お前のことを好きなのはお父さんも一緒だよ。さあ帰ろう。お母さんが待ってるよ。潤(弟)も心配してたぞ。」

翔太は、私をアスファルトの地面に下ろしながら、小さな声で

「父さんが俺のこと好きだって言ったよな。初めて聞いた。」ニャオーン

それから、翔太は車に乗って帰って行きました。

車の窓から翔太の笑顔が見えました。

良かったね、翔太。理解して心配してくれる父さんや母さんや弟の潤くんがいてくれるじゃない。一人ぼっちじゃないよ。

翔太が手を振ったので、私も精一杯しっぽを振りました。ニャーニャーニャー

黄色い車が去っていった後で

「何だか良かったんじゃない?」とたま姉さんが私の横に座って言いました。

「なーんにもしてあげられなかったけどね。」と私。

「そばに一緒にいるのが良いんですよ。それだけで癒されます。」なんとミーシャが言いました。そのそばにはギブが座っています。

「1人じゃないと感じることは良いことだよ。寂しくないからな。マダムMは寂しい心をうめてくれたんじゃないかな。」ギブはミーシャの顔を舐めながら言いました。めちゃくちゃ仲が良いじゃないの?もしかして・・・?

「みんながいるって良いね。翔太は少しは元気になったのかな?」シャドーがフェンスの上からひらりと飛び降りて言いました。何度も言うけど、本当にカッコイイわあ。

「ちょっと元気が出たって言ってた。これからも元気でいてくれたら良いけどね。すぐには難しいかもしれないわ。」私はどうしたら翔太が本当に元気になってくれるのかを考えながら言いました。

「きっと翔太のことをわかってくれる友達ができるよ。」たま姉さんが力強く言いました。

「俺もそう思うよ。俺も友達なんて1人もいないって思っていたけど、こんな俺にだって友達ができたもんな。」そうよね!良かったねギブ。

暗い駐車場をライトの光がスポットライトのように照らしました。

白い車が入って来ました。マイダーリンの車です。

「マダムM、お別れだね。さようなら。」「ありがとう、たま姉さん」

「マダムM、また今度な。」「みんなも元気で!また今度ね。」

みんなにさよならを言って、私はマイダーリンの車の助手席に座りました。

「今夜はどうだった?」マイダーリンが言いました。ニャーオーン

 

数日後、翔太がレインボー塾にやってきました。今日は翔太のグループのSSTでした。翔太の他にも5人の5年生が集まっています。

今日のSSTのテーマは「嫌なことを言われたりされたら?」です。

はじめにスタッフがロールプレイをします。

1人が縄跳びをしているジェスチャーをしています。もう1人が

「お前縄跳び下手だなあ。全然跳べてないよ。」と言いました。

縄跳びがうまくできない人は泣いてしまいました。

こんなコントみたいなロールプレイを見せて、

「どうだった?」と聞くと

シンジが

「ひどいこと言われたけど、泣くことないよ。大したことないもん。」と言いました。

シンジはどちらかと言うと「お前下手だなあ。」と言う方かもしれません。

頭に浮かんだ言葉をそのまま不用意に口走ってしまう傾向があります。運動も得意で縄跳びもハヤブサができるぐらいです。

キョウコが「私だったらやっぱり泣くと思う」と言いました。

キョウコはおとなしい女の子で、友達はいるけど言いなりになってしまって、自分の意見を言うことができません。

何か嫌なことがあっても、内に秘めてしまって顔には出しません。引っ込み思案な性格を、自分でも何とかしたいと思ってレインボー塾に通っています。

「泣いても何も解決しないよ。嫌なことを言われたら先生に相談したら良いじゃないか。」とシュウが言いました。

シュウは、正しいことをすることが大事だと思っている正義感の強い男の子です。コンビニの前で座りこんでタバコを吸っている高校生に「未成年はタバコを吸ってはいけません。」と言って殴られそうになったこともあります。

「先生なんて何にもわかってくれないよ。」とポツリと言ったのは、翔太でした。翔太は漢字の件で先生を信頼することができないのです。

「そんなことないよ。先生に相談すれば解決してくれると思うよ。それか親に相談したら良いんじゃないかな。」とシンジが力説しました。

「私も親に相談するわ。お母さんが聞いてくれると思う。」キョウコも賛成しました。

「私は言い返すと思う。だって嫌なことを言われたんだもん。そいつの弱点を見つけてコテンパンにやっつけてやるわ。腕力でも負けないし。嫌なことを言った奴には報復しないと。」

物騒なことを言い出したのはリナです。リナは大柄の女の子で、男の子と喧嘩をして殴ったり蹴ったりして、相手を完膚なきまでに打ち負かす武勇伝の持ち主です。まあ正直、リナに嫌なことを言える勇気のある子どもは多分いないと思うけどね。

「それじゃあ、相手を怪我させたりしたらこっちが怒られるんじゃない?損すると思うよ。まあリナ相手ならそんな自殺行為する奴いないと思うよ。それより、誰か信頼できる人に相談したら良いよ。友達でも良いと思う。」と言ったのは、キョウヘイでした。

キョウヘイは絶えず動き回っている元気一杯の男の子です。面白いことをやったり言ったりしてみんなを楽しませます。おっちょこちょいでミスが多いけど、どこか憎めない性格で友だちも多い方です。

「俺なんか、友達いないし・・1人も」またもや、囁くように言ったのは翔太でした。

「何で?ここにもキョウヘイっていう立派な友だちがいるじゃないか!何でも相談してよ。」とキョウヘイが翔太に近づいて言いました。

「えっ!」翔太は驚愕の眼差しでキョウヘイを見ました。初めて気が付いたようです。

私はキョウヘイに「グッジョブ」(イイね)のつもりで、親指を立てて見せました。キョウヘイはニコッとしました。

「嫌なことを言われたらどうしたら良いか、みんなが意見を言ってくれたね。じゃあ嫌なことを言われた時、自分はどうするか、ロールプレイでやってみようね。」と私が言いました。

2人1組でロールプレイをしました。翔太はキョウヘイと組みました。

翔太がエアー縄跳びをしているところに、キョウヘイがきて

「翔太、お前縄跳びが下手だなあ。」と言いました。

翔太は黙ってうつむきました。

「嫌なことを言われたら、嫌だって言っても良いんだよ。」キョウヘイが翔太の肩に触りながら言いました。「って俺が嫌なことを言った張本人か?俺が反省しなきゃなあ。」とおどけながら翔太にもたれかかります。

「俺は縄跳びが苦手だけど、下手だとは言われたくないな。」と小さな声で翔太が呟きました。

「良いじゃないか。上出来だよ。その調子その調子、お調子もんは俺かあ。」キョウヘイは嬉しそうに翔太に抱きつきました。翔太もチョッとはにかみながらニヤッと笑って抱きかえしました。

「俺たちハグ友だな。」キョウヘイがシンジにも抱きつきながら言いました。

「俺らはハグ友なんだから、相談してみろよ。」キョウヘイが言いました。

翔太は、はじめのうちは固まったように黙って立っていました。でも次第に、キョウヘイの笑顔に励まされたのか、静かに話し始めました。

「俺、今日も嫌なことを言われた。みんなが聞こえないように小声で言うんだ。「キモい」って。ずーっと言われてる。嫌なことばっかりだ!」

キョウヘイは黙って翔太をハグしました。翔太の耳元で「辛かったなあ。よく我慢していたな。えらいなあ君は。俺だったら絶えられないよ。」と言ってちょっと涙ぐんでいます。

翔太もキョウヘイをグッと抱いて黙って泣いていました。

コラコラ、ロールプレイをするんだってば。本当のお悩み相談にしないでよ。でも、キョウヘイ、カッコ良すぎ。

キョウヘイは相手の気持ちがわかって共感できる子どもです。翔太の気持ちを痛いほど感じて一緒に泣いてくれる友だちです。良かったね!翔太。ハグ友ができた!

ロールプレイも終わって、色々なシチュエーションで嫌なことを言われたりされたりした時に、どうすれば良いのかを練習しました。

翔太は少し明るい表情になって、いつもより積極的にロールプレイに参加していました。

帰り際、翔太が私の所にやってきました。

「レインボーばあば、ありがとう!元気が出てきた。」

と嬉しそうに言いました。

「元気チャージ。満タンだね。」とキョウヘイがガソリンスタンドで給油しているところを真似して、みんなを笑わせています。ほんとあなたはムードメーカーですね。今日のキョウヘイは素晴らしい!

元気満タンにして、みんなは帰って行きました。

翔太はこれからも辛いことがあるかもしれません。理解してもらえないもどかしさ、理不尽なことで怒られる悔しさ・・・などを感じながら日々を過ごしているのですから。

でも、家族をはじめ、キョウヘイやレインボー塾の友だち、そして、あなたのことが大好きで、いつでも支えになろうとしている「レインボーばあば」こと「マダムM」がいることを忘れないでね。

とらネコせんせい物語はこれからもどんどん続きます。

次回、とらネコせんせいは、どんな子どもと出会い、どんなことが起こるのか?楽しみにしていてください。

実は、私も知らないのよ。(マダムM)