私の愛するとらネコ「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が・・・

そうなんです。私は昼間は「レインボー塾」の先生として、夜になると、とらネコの「マダムM」としてネコの仲間達と一緒に過ごす毎日を送っているのです。

今夜は満月に近いらしく、児童公園のブランコやベンチを明るく照らしています。ネコ達の集会所はこの児童公園の木の下で、今日も黒猫の「流星」やキジトラの「マヤ」やアメリカンショートヘヤーの「ジゴロ」などいつもの野良猫や飼い猫たちが集まっています。

いつものメンバーを見渡していると、黒猫の流星が

「おや、マダムMじゃないか。この頃見かけないからてっきり・・・」

「てっきり何だい?流星」

「いや、てっきり遠くまで旅行にでも出かけたんだと思っていたんだよ。」と大汗をかきながら答えました。

「まあ、旅行は好きだけどね。また戻ってきたんだよ。これからもよろしくね。」

そうすると、アメリカンショートヘヤーの「ジゴロ」が

「相変わらずふくよかだね、マダムM。元気そうで良かったよ。ところで団地に住んでいる「悠人」のことは聞いた?」

「何かあったの?何も聞いていないけど・・・。」

悠人とは、レインボー塾に通ってくる小学校3年生の男の子です。団地に住んでいて、お父さんとおばあちゃんと一緒に暮らしています。最近別の所から引き取られてきたようで、いつも不安と不満でいっぱいの表情をしています。

「昨日の夜、団地の公園のベンチで毛布をかぶって寝ていたのを見たよ。また家出をしてきたんじゃないかな。この頃冷えるし風邪をひかないか心配だよ。」とジゴロが顔に似合わない優しさを見せました。

それを聞いていた流星も

「そうだった。俺が見たときはリュックサックを背負って自転車に乗って駅の方に向かってたよ。坂道をふうふう言いながらこいでたんだ。」

「えっ!それいつのことだい?」と私が尋ねると

「えーっとあれは今日のお昼すぎだったかな?公園の弁当をあさっていた頃だもんな。うん、お昼をすぎていたと思う。」

「悠人は駅から電車に乗ってどこかに行ったのかな?誰か知っているかい?」

「さあ。駅の近くに私の友達の「さくらさん」がいるから、明日聞いておこうか?」とキジトラの「マヤ」が言いました。

「それはありがたいねえ。頼んだよ。」と私が言うと

「俺たちも何か情報がないか聞いてみてあげるよ。」と他のネコ達も言ってくれたので心配だけど頼れる仲間にお願いしてそろそろ帰ることにしました。

次の日の夜、団地の公園に行ってみると、公園のベンチに悠人が1人で座っていました。そうっと近づいてベンチの下にうずくまると

「あれ、太っちょのネコだな。」と言いながら悠人が手を伸ばして私の頭を撫でました。だいたいネコ好きな人間はネコを見ると撫でたがるので、気に入った人間には「にゃーゴロゴロ」と返事をすることにしています。悠人は私を抱き上げてベンチに座らせました。

「ほんとにお前太っちょだな。何食ってんの?」悠人が笑いながら言いました。失礼しちゃうわ!そりゃあちょっと太めではありますが、そんなに笑わなくても・・・でも「にゃー」としか言えない私。

悠人は私の首筋をなでながら、

「こんな所に住みたくないんだよな。なんで兄弟と離れてこんな田舎に住まなくちゃいけないんだよ。元の家に帰りたいよ。わかる?太っちょ君。」

悠人はうっすらと目に涙を浮かべてポツリポツリと話し出しました。

「にゃー、にゃおん。」と私。

「そうか、俺の気持ちがわかるんだな。毎日ばあちゃんの顔を見るのも、学校に行くのも嫌でしょうがない。レインボー塾は楽しいから好きだけど、一週間に1回しかないしな。」

「にゃーん。」ゴロゴロ盛大に喉を鳴らしながら悠人のお腹に頭を擦り付けました。

「お前あったかいなあ。膝の上に乗る?」そういうお誘いは進んで受け入れるタチなので早速膝に乗って丸く納まりました。

「昨日本当はさあ、家を出て帰ろうと思ったんだよね、元の家にさ。でも、お金が足りなくてさ、結局電車には乗れなくて戻ってきたんだ。」

「にゃん。」悲しい気持ちが伝わってきて、思わずもらい泣きしそうでした。

悠人は私の背中を撫でながらずーっと遠くを見ていました。きっと兄弟やお母さんのことを思っているんだろうな。会いたくてたまらないんだろうな。だから、学校で暴れて友達に怪我をさせたり、ガラスを割ったりしたんだろうな。

悠人の寂しさや不安や悔しい気持ちが、手の平から伝わってきて私は動くことができませんでした。まあ悠人の膝の上はとても居心地が良いので急いで動く必要もなかったけどね。随分長い間そうやって1人と1匹でベンチに座っていました。

次に日悠人はレインボー塾にやってきました。塾に通う日ではなかったんだけど、お昼すぎに1人でのっそりと入って来ました。(学校は?と言いかけたけど黙っていました。)

「俺プレイルームを使いたい。」と言ったので、オーケーしてプレイルームへ行かせました。プレイルームは広い部屋でサーキットトレーニングをしたり、ボール運動をしたりする部屋です。床も壁もウレタンが貼ってあるので暴れても怪我をしないようになっています。トランポリンもあります。子ども達が大好きな場所です。

悠人は部屋に入るなりスポッチャ(スポンジのチャンバラができる剣)を取り出して壁や床をスゴイ勢いで叩き始めました。棚に置いてある用具も叩き落としてメチャクチャに暴れました。数分間続けて叩いているうちに疲れたのか床に座り込みました。スポッチャを床に叩きつけながら「なんでだよ!なんでここにいなくちゃいけないんだよ!」と泣き叫びました。私は黙ってその様子を見守っていました。慰める言葉も見つかりません。辛い気持ちを吐き出している姿を見ていることしかできませんでした。

しばらくして悠人は立ち上がって部屋を見回しました。そしておもむろに自分が叩き落とした遊具を棚に戻し始めました。気持ちの整理がついたのか妙に落ち着いて部屋を片付けています。

「ありがとうね。きれいになったわ。」と私が言うと、悠人は照れ臭そうに笑って「レインボーばーば(私の呼び名です)ごめん。」と言いました。

「何か困ったことや悩んでることがあったらいつでも相談してね。一緒に考えようね。」と私が言うと、悠人は少し考えてから

「公園で友達になった太っちょ君がいるからいいや。」と言って帰って行きました。

チョッとそのネコ私なんですけど!太めだけどあんたに言われる筋合いはないし。おまけに太っちょ君だって!メスなんですけどお!マダムMっていう名前もあるんですけどねえ!って心の中で大声で叫んでみたけどむなしいだけか!

その後公園の夜のベンチでのデート?が何回か続き、プレイルームでの大暴れも数回続いて何となく悠人は現実を受け入れ始めたようです。

学校にも行くようになり、暴言や暴力はまだまだ続いているようですが、以前ほどの感情の爆発もなくなってきたようです。

まあ、すぐには解決できる問題ではないけれど、時間がたてばゆっくりと環境の変化に馴染んで行くのではないかと思っています。

悠人が駅で電車に乗らないで戻って来てくれて本当に良かったと思っている「マダムM」(レインボーばーば)でした。

とらネコせんせいの物語はまだまだ続きます。楽しみに待っていてね!