暗黙のルールって何?
社会生活をしていく上で『暗黙のルール』というものがあります。
何処かに表示されているわけではありません。
「これがルールですよ」と言われるものでもありません。
でも、確かに存在していて、大体の人が守っているルールです。
日常生活の中に「当たり前」と思われていることが沢山あります。
「そんなことは、言われなくてもわかるだろう。」
「ふつう、そんなことしないよね。」
「当たり前じゃないか。」
例えば、「人前では大きいな声で独り言を言わない」とか「お葬式の時に笑ってはいけない」とか「他人の家に入った時に臭いなどとは言わない」とか・・・・様々な場面で『暗黙のルール』が暗躍しています。
「当たり前」とか「普通」とか言われても、何が「当たり前」なのか?何をもって「普通」というのか?その定義は難しいところです。
国や文化によって「当たり前」は変わる!
その人の生きている国や社会や文化・・などによって、「当たり前」や「普通」は変わってくるものです。
日本では「当たり前」のことも、他の国では非常に失礼になることがあります。
日本では「普通」でも、他の国や地域では「普通」ではないかもしれません。
では、何故「当たり前」や「普通」を重視し無ければならないのでしょう。
それは、私たちが現在日本で生活しているからだと思います。
「当たり前」のことが「当たり前」ではない?
発達障害などで『生き辛さ』を感じている子ども達には、「当たり前」とされていることが「当たり前」ではないのです。
何故そうしなければいけないのか理解できません。
例えば
人の家の玄関に入って「この家臭いよ」と言ってしまう。
彼らは本当のことを言っているのです。
感じたままに口に出してしまうので、彼らにとっての真実です。
でも「一般常識」というものがあって、相手が不快であると感じることは言わないのが礼儀です。
本当のことだからといって、言って良いことではありません。
他者目線というか、他者の気持ちの理解や状況の把握というのがとても苦手なので、平気で言ってしまうのです。
「他人の家に入った時に臭いと言ってはいけません」とは何処にも書いていないし、誰からも言われていないのですから、知らなくて当然なのです。
でも、一般的には、「そんなこと言われなくてもわかるだろう」とか「常識だ」とか言われるわけです。
彼らからすると、自分は正直に自分の意見を言ったまでで、そんなに怒られるなんて理不尽だと感じます。
それならそうと書いておいてよ!と思っているわけです。
「暗黙のルール」は他者への共感が前提
相手がどう思うかを理解することはとても難しいのです。
「心の理論」というものがあるますが、他者の立場になって考えられるようになるには、この「心の理論」を通過していなければできないのです。
だから「相手の気持ちを考えて行動しなさい」と言われても、相手の気持ちなどわからないのです。
「相手は自分の家が臭いと言われてとても悲しい思いをしています。あなたの家が臭いと言われたらどう思いますか?」と言ってみると、「そうか、嫌な思いをさせてしまったんだな。」と初めて気がつくわけです。
「暗黙のルール」は、相手への思いやりや礼儀、規律などに基づいてできている場合が多いです。
ですから、「相手の気持ちを共感できる」ということが前提にあります。
「自分だったらどう思うか?」ということを考えることができて初めて成り立つのです。
他人に無関心で、自分の世界に入っている子どもには、他人の気持ちを推し量ることはとても難しいことです。
また、状況の全体像が見えていない子どもには、他者の目線というものを感じることができません。
例えば、
プールでの水着を着替える時にも、人前で平気でパンツまで脱いで丸裸になっても平気なのです。
周りの友達がどんな思いを抱いているかなど全く意に介さないのです。
電車の中でも、大声で独り言を言ってしまったり、トイレのドアを開けたまま用を足したりしても、他人の目を気にしなければ恥ずかしいとは思いません。
「暗黙のルール」を教える時には、まず他者目線を理解しているか、共感できるかどうかをリサーチしてから始めなければうまくいかない場合が多いです。
発達障害などで「生き辛さ」を感じている子ども達に、どのようにして『暗黙のルール』を教えていくのか?を考えてみようと思います。
暗黙のルールは難しい!
学校生活では、「学校のルール」というものがあります。学習のやり方のルールや生活のルールなどです。
例えば、
「チャイムがなったら席に着く」というルールは、教室でも表示されていますので、見ればわかるルールです。
でも、「友達が注意されている時は笑わない」などは、何処にも書いてありません。
ルールとしては明確にされていませんが、何となく経験上、笑ってはいけないことだと思われています。
これが『暗黙のルール』です。
例えば
給食の時間に、隣の子どもが牛乳をこぼしたとします。
同じグループの子は、雑巾を持ってきて一緒に拭いてあげます。
何処にも一緒に拭きましょうとは書いてありませんが、こういう時は手伝ってあげるのが良いとされています。
でも、発達障害などで『生き辛さ』を感じている子ども達の中には、こういう状況の時
牛乳はこぼしたら臭いんだよ。早く拭いてよ。
などと言いながら、悠然と給食を食べ続けている子どもがいます。
周りの子ども達は唖然とします。ヒンシュクを買っているのに本人は気が付きません。
それなら手伝ってくれたら良いのに。
と思って言います。
でも、
僕がこぼしたわけではないのに、何で手伝わなければいけないのさ。
と言う返事が返ってきて、また唖然とするわけです。
当然人間関係を構築するのは難しくなります。
しかし、この子どもに「そんなの常識だ」とか「一緒に拭くのが当たり前だ」と言って、注意しても、本人は何故注意されるのか理解することができないので、理不尽に叱られたと感じるわけです。
牛乳をこぼしてしまった子はとても困っています。自分が牛乳をこぼしたらどうしてもらいたいと思いますか?
このように、相手の気持ちを考えさせるのではなくて、相手の気持ちを言ってあげる方がわかりやすいのです。
自分だったらどうか?という視点を考える根拠にすると、少しは理解できるようになります。
僕は牛乳をこぼしたりしないからわからない。
と言うかもしれません。
そういう時は、この子が失敗した前例を取り出します。
この前、掃除の時にバケツをひっくり返して、廊下に水が流れて困っていたことがあったね。覚えてる?あの時、みんなが拭くのを手伝ってくれたよね。その時どう思った?
それでも
そんなことあった?忘れた。
というかもしれません。
自分が困った時に、みんなが手伝ってくれると、とても嬉しいものです。
だから、みんなは手伝っているのです。
と他の人の行動を説明します。
そんな時に、『牛乳は臭いから早く拭いてよ。』と言って、手伝わないで給食を食べ続けていると、みんなは嫌な気持ちになります。
その子の行動に対しての他の友だちの気持ちを説明します。
友だちになるためにはどうしたら良いと思いますか?
このように聞いてみると、手伝おうとする子どももいます。
友だちなんかいらない
と言うかもしれません。
でも、内心みんなに責められるよりも、仲良くしたいと思っているかもしれません。
その時は手伝えなかったとしても、次はもしかしたらできるようになるかもしれません。
『暗黙のルール』は何処にも書いていないし、だれも教えてくれないからわからないのです。
暗黙のルールを理解していないと思ったら、丁寧に説明して教えてあげることが大切だと思います。
もちろん、1つの場面がクリアできても、また同じような場面でも、同じ間違いをするかもしれません。
「この間言ったでしょう」と言っても、殆ど理解できないと思います。
Aの場面と似ているからBの場面に応用したらわかるだろうと思っていると、落胆させられることが多いです。
Aの場面でも教えて、Bの場面でも教えて・・・というように、その場その場で毎回忍耐強く教えていくことがとても重要なことだと思います。
『暗黙のルール』は日常生活の中に沢山あります。
日常生活の中で、「暗黙のルール」は数え切れないほどたくさんあります。
いちいち教えていてはキリがないと思うかもしれません。
でも、繰り返し繰り返し丁寧に説明して、何故そうしなければいけないのかを理解できるように導いていくことが大切なのです。
SSTで『暗黙のルール』を教えよう!
SSTでは、始めに『暗黙のルール』というものがあることを教えます。
ロールプレイを見る(場面)
スタッフのロールプレイを見ます。
場面
A君が自分の席で本を読んでいます。
A君が本を開いたままトイレに行きました。
B君はA君の席に座ってA君の本を読み始めました。
A君が帰って来ました。
A君が
僕の本だから勝手に見ないで
と言いました。B君は
A君が本を開いたまま何処かに行っちゃったからもう見ないと思ったんだよ。
と言いました。
トイレに行ってたんだよ。僕の席に座って僕の本を読まないでよ。
とA君が言いました。
考えてみよう
ロールプレイを見た感想を発表しましょう
A君の席なんだからB君はおかしいよ。
A君はいなくなったんだから本を読んでも良いと思う。
B君は本が置いてあって人がいなかったから読んだんだと思う
色々な意見が出ます。
「席にいないときでも、人の本を勝手に読んではいけない」というルールは何処にも書いてありません。
でも、一般常識としては、人の物に勝手に触ってはいけないというルールがあります。
B君はどうしたら良かったと思う?
と聞いてみると
A君がいなくても、勝手に読んではいけない。
という意見が出て来ました。
A君に聞いてから読んだら良い
という意見も出て来ました。
やってみよう
スタッフがやったロールプレイを、今度は子ども達同士でやってみます。
A君の役の人は、席で本を読んでいます。その後、席を立って出て行きます。B君の役の人は、どうするのか?話し合った通りにやってみます。
B君はA君が帰ってくるのを待っていて、
本を貸して欲しい
ということもできますし、A君がいなくなったので、本は諦めて違うことをしても良いし、勝手に本を読む行動でなければ良いわけです。
自分たちでやってみると気がつくことがあります。
例えば、勝手に本を読むのをスタッフがやって、A君を子どもがやってみた時に、
すごく嫌だった
と感じて、自分がやっていたことは人に嫌な思いをさせるということに初めて気が付いた子どももいます。
練習してみよう
色々な場面を設定して、その時どのような行動をしたら良いのかを考えていきます。
場面の書いてあるカードを提示します。
その時どのような行動をするのか2人1組でロールプレイをします。
どんな暗黙のルールなのかを考えて発表します。
例えば
場面:A君とB君が公園で遊ぶ約束をしていました。でもA君は用事ができたので、公園に行きませんでした。
ロールプレイでは、B君が公園で待っているところをします。
B君はどんな気持ちで公園で待っていた?
何でA君は来ないんだろうって思った。
A君はどうしたら良かった?
B君に行けなくなったと連絡すれば良かった。
暗黙のルールは?
約束した時に行けなくなったら連絡をする。
ゲームをしよう
「暗黙のルール」ゲームをします。
「暗黙のルール」カードを山札において、1人ずつ引いていきます。
「暗黙のルール」カードの質問に答えます。
わからない時は、「ヘルプカード」を出して、「お助けマン」を呼んでも良いです。
「お助けマン」は、一緒に考えてやってみます。
見ていた友だちは、良かったら「良いね👍」カードを出します。
振り返り
「暗黙のルール」の学習でわかったことや気がついたこと、感想などを発表しましょう。
いろいろな暗黙のルールがあるのがわかった。
でも、どこにも書いてないし、言われないからよくわからないのもあった。
全然気がつかなかったけど、結構いっぱいあった。
難しいなあと思った。
暗黙のルールを全部教えるのは無理
世の中にある「暗黙のルール」を全部教えるのは無理です。
あまりに沢山あって、多岐にわたっています。
何処までを教えたら良いのかは、ケースバイケースですが、最低限友達や周りの人と仲良く生活していく上で必要と思われることは教えていかなければいけません。
*人に嫌な思いをさせること
*人に迷惑をかけること
*自分勝手だと思われないようにすること
*無責任だと思われないようにすること
*人との関係を壊してしまうこと・・・などなど
どんな言動が、人に嫌な思いをさせるのかも教えていく必要がありますが、その時々で教えていくしかないと思います。
今回は「暗黙のルール」をどのように指導したら良いのかを紹介しました。
とても難しい課題なので、1回の指導で身につけようとするとうまくいかないかもしれません。
何回も、繰り返し、場面を変えて指導していく必要があります。
暗黙のルールの教材
暗黙のルールを学習するときのワークシートです。
場面の部分をスタッフがロールプレイで見せても良いです。(文章からイメージすることが苦手な子どもが多いので、実際にやって見せた方がわかりやすいと思います。)
ゲームや練習などで使う質問カードです。
場面が書いてあるカードに、A君はどうしたら良かった?暗黙のルールは?という質問が書いてあります。
1人で考えるのは難しいので、2人でロールプレイをやってみるのも良いと思います。実際にやってみると、相手の気持ちがわかる場合もあります。
答えを考える時に、難しいと思ったら、「ヘルプカード」を出して「お助けマン」を呼んでも良いことになっています。
これは、自分が困った時は「SOS」を出しても良いんだという学習にもなります。
また、友達が困っていたら「お助けマン」になって助けてあげることで、自己肯定感が上がります。
ヘルプカード、お助けマンカード、良いねカードをおまけでつけておきます。
これらのカードは、色々な使い方があります。
今回は、暗黙のルールについて説明しました。
非常に難しいターゲットスキルですが、社会で生きていくには必要不可欠なスキルです。
日常生活の中で、少しずつ身につけていってほしいと思います。
SSTのターゲットスキル は、まだまだたくさんあります。
少しずつ紹介できれば良いなと思います。