第11話 とらネコ先生 探し回るをご覧になりたい方は→こちらをクリック
私の愛するトラ猫「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が!なんと!私はとらネコ「ミューニャン」に変身してしまったのです!!
こうして私は、昼間は「レインボー塾」の先生(通称レインボーばあば)として、レインボー塾に通う子ども達を支援し、夜はとらネコ「ミューニャン」(通称マダムM)として、猫の仲間達と一緒に暮らす毎日を送るようになりました。
大きな港のネコの仲間
今夜は月が縦に半分、空にぽっかり浮かんでいます。
この頃はとても寒い日が続いています。
冷たい風を頬(口髭?)に受けながら、見上げると、澄んだ空気のせいか、月が輝いて見えます。
今日は、久しぶりに、大きな港の方に来ました。
レインボー塾 SST 3年の涼太が住んでいる港は、もっと小さくて漁船が並んでいましたが、こちらの港は、大きなフェリーが停泊しているような広い港です。
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港は、図書館や博物館がある、高級住宅街?の近くにあります。
高級住宅街?には、レインボー塾 SST6年の徹哉が住んでいます。
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住宅街を抜けて、道路を渡ると、白い建物があります。
結婚式をしたり、パーティーを催したりする、おしゃれなレストランです。
レウトランの横の道を進むと、フェリーターミナルやショップが並ぶ賑やかな所に着きます。
港からは、対岸の陸地がかすかに見えています。
外洋を大きなフェリーがゆったりと進んでいます。
今は夜のなので、フェリーターミナルもショップも閉まっています。
人影もまばらで、夜の港を楽しむカップルの姿がチラホラ見えます。
大きな港のネコ達の集会所は、桟橋の付け根の出店がある所です。
少し早足(ドタドタを早足とは言わないって?ほっといてよ!自分では早足だと思ってるんだから!)で近づいて行くと、閉まっているお店の裏にみんなが固まっていました。
こんばんは!セリーヌ姉さん。いつもながら美しい毛並みね。
あら、誰かと思ったら、マダムMネ!久しぶりじゃない。何をしてたの?
優雅に尻尾を振りながら、真っ白なペルシャ猫のセリーヌ姉さんが言いました。
外国帰りの老夫婦の飼い猫で、素敵なテラスのある大きな邸宅に住んでいますが、夜になると門の猫ドアから抜け出してくるのです。
マダムMは、相変わらず・・・元気そうだね!
そう言いながら、建物の影から出てきたのは、グレーのカッコいいロックです。
ロック、相変わらず何?ロックも颯爽としていてかっこいいわね。
それほどでもないよ。
ロックは前脚を舐めながら照れ臭そうに言いました。
ロックは前は邸宅の飼い猫でしたが、飼い主が外国に引っ越したので、今では何軒かの家の飼い猫になっています。名前も、グレーとかジョージとかその家で呼ばれているものに変わります。それぞれの家庭で家族として可愛がってもらっているのですから、あっぱれとしか言いようがないです。
ロックは今日はどこの家に行ってたの?
佐々木さんの家だよ。芝生の庭が綺麗な家さ。
全く、色々な家で飼われてるなんて!
これが処世術ってもんだぜ。
処世術に長けていることは確かね。
そう言いながら、パン屋の裏から出てきたのは、真っ白な毛並みが輝いているスノーホワイトです。パン屋の横のギフトショップが彼女の家です。
スノーホワイト、いつも輝いてるわね!
ありがとう、マダムM。こう見えてもギフトショップの看板猫なのでね。
スターは輝いてなくちゃね!
さすがね。心構えが違うわね。いつも観光客で賑わっているものね。あなた目当てに来る人も多いそうよ。
古いレコード屋さんかの横から出てきたのは、ポンティアックのジョイです。
ジョイは道路を挟ん高級住宅街にある大きな家に住んでいます。
家族は長い間欧州で暮らしていましたが、定年になって故郷であるこの街に引っ越してきたのです。
ジョイ、いつも上品で素敵ね!
マダムM、久しぶりねえ。この街に用事があったの?
久しぶりに海が見たくてね。大きな船も。ここは、本当に綺麗なところよね。
そうね。海の色は、エーゲ海とは比べ物にならないけど、綺麗よね。
本当にね。私はこの街が好きよ。近くに図書館も博物館もあるしね。
静かで穏やかなところがお気に入り。
海外の街もそれなりに見てきたけど、今はここが良いわ。
ジョイと同じく欧州帰りのセリーヌが言いました。ここは国際色豊かなネコ仲間の集まりですものね。
おーい!マダムMいるか?大変なんだよ!
大きな声で叫びながら、港の方から走ってきたのは、この辺の情報通、野良猫のDJジョーです。
DJジョーは、生粋の野良猫で、レストランの裏が縄張りのはずです。
どうしたの?DJジョー。そんなに慌てて。
どうしたもこうしたもないよ!マダムM。
恭平って確かレインボー塾の子どもだったろ?
この前ゲームで負けて怒ったって話してたじゃないか。
恭平なら、レインボー塾の5年SSTに通っているわよ。
恭平がどうかした?
それが、恭平くんが、暗い顔をして、埠頭の方に走って行ったのを見たのよ。
DJジョーの彼女の茶トラのカーチャが息せき切って、ハアハアいいながら言いました。
とんでもなく暗い顔だぜ。埠頭の倉庫があるところに向かってたけど、なんか尋常じゃなかったぜ!早く見に行った方が良いんじゃないか?
そうなの?教えてくれてありがとう。行ってみるわね。
私は、急いで港の埠頭の方まで走りました。
若いカーチャでさえハアハア言ってたぐらいですから、私に至っては、ゼイゼイ、ゼイゼイ、もう倒れるんじゃないかと思うぐらい頑張って走りました。
でも、その私の横を、いたって平気な顔で、DJジョーとカーチャ、ロックがスーッと追い越して行くではありませんか!
マダムM、そんなドタドタ歩いていると、いつまでも着かないぞ!
そうだよ!ゼイゼイ言ってる割には、進んでないし!
そんなこと言ったら、マダムMに失礼よ!
あれでも精一杯走ってるつもりなんだから!
カーチャ、あんたの言葉が1番傷つくわ!って言いたいけど、喋るなんて無理。
ただただ必死で走るしかないわけよ。
たとえ周りには走ってるようには見えなくてもね!
ショップが並ぶ所から、階段を下って、海岸の方に行くと、倉庫が並んでいる一画があります。
DJジョーとカーチャ、そしてロックはもうとっくに倉庫の横に着いていて、辺りを探しています。
おかしいなあ、さっきはこっちの方に走って行ったように見えたんだけどなあ。
私にもそう見えたよ。倉庫の影に隠れているんじゃない?
俺にも見えないなあ。倉庫の裏も見たんだけどなあ。
あーっ!あれは?恭平じゃない?
恭平はとんでもないところにいました。
倉庫の端の、クレーンがある所の前の、岸壁。
目の前が海です!
その前で、暗い顔をして(よく見えないけど多分)ジーッと海を見つめています。
もしかして?まさか!
恭平!恭平!早まっちゃダメよ!
私は声の限りに叫びました。というか吠えた?
でも、聞こえてくるのは
ギャーオ!ギャーオ!ギャギャーオ!ギャーオ!
でした。これでも吠えているつもり。
まあ悔しいけど、犬の方が遥かに上手だけどね。
そして、今まで出したこともないスピードで走って、恭平の近くにたどり着きました。
ギャーオ、ハアハア、ゼイゼイ、ギャーオ、ハアハア、ゼイゼイ。
DJジョーとカーチャ、ロックは、少し離れたところで様子を見ています。
あれ?どうしたの?太った猫ちゃん。そんなに走ったら、身体に悪いよ。
ゼイゼイ言ってるじゃないか!
ゼイゼイ、ハアハア、ゼイゼイ、ハアハア・・・もうダメ!
恭平は私の方に近づいて来ました。
そして、そうっと私を胸に抱きました。
ドクドク言ってる。よっぽど急いだんだね。
そう言いながら、背中を撫でました。
そりゃあ焦ったわよ!
だって、恭平、今にも海に飛び込みそうな表情で、じーっと海を見つめてるんだもの!
ニャオニャオニャーン!ゼイゼイ。
ゼイゼイ、ハアハアは、もう大丈夫そうだね。良かった。
良かったって、こっちのセリフよ!
飛び込まなくて本当に良かった!
この辺は大型船が着岸できるように、深いのよね。
心配したわ。
ニャオーン、ニャン。
心配そうに見ていた、DJジョーもカーチャもロックも、もう大丈夫と思ったのか、お店のある方に引き上げていきます。
恭平は、私を抱いたまま、岸壁に座りました。足をぶらぶらさせています。
いやいや、そこは危険でしょう。
岸壁から離れて欲しいものだわ。
落ちたらどうするの?
ニャニャニャオーン。
ん?怖いの?
落っことさないから大丈夫だよ。
俺よく来るんだ、ここ。1人になりたい時とか・・・
カモメしか聞いてないし、見てないからね。
なるほどね。
1人でゆっくり考えたいことだってあるよね!
でも、もう少し海から離れようよ。
私は正直言って怖い。
水に濡れるのはだーい一嫌いなのよね!
ニャゴニャゴ、ニャン。
そうか、お前も1人になりたい時があるんだな。
よくわかってるじゃないか!
そうじゃないってば!
気持ちはわかるけど、違う場所に行こうよ!
あそこにベンチもあるしさあ。
ニャーン、ニャニャニャ!
それでも恭平は、岸壁に足をぶらぶらさせて座っています。
どこか遠くの海を見ているようです。
仕方がない。こうなったらトコトン付き合いましょう。
私は腹を決めて(?)、恭平の胸にしがみつきました。
しばらく、波が寄せては返す音だけが静かに聞こえるだけでした。
遠い海を、灯台のサーチライトがゆっくり照らしています。
俺さあ、どうしても自分が好きになれないんだよな。
父さんだって、ウンザリしてるんだよ。
いつもカーッとなってやっちまうし。
どうしてもヘマばっかりするんだ。
よく忘れるしな。
母さんがいつも忘れ物を届けに来てくれるけど、本当は嫌になってるよなあ。何をやっても続かないし、授業中も話を聞いてないって先生に怒られてばっかりだしな。
すぐに友達とも喧嘩ばっかりだし、みんな俺のこと嫌ってるんだ。
俺なんて、俺なんて・・・
恭平は下を向いたまま、固まったように動かなくなりました。
ズリ、ズリ、ズリ・・
えーっ!
私ずり落ちそうになっています?
そうよねえ。
恭平の胸に爪をかけながら必死でしがみついているけど、ズリズリってなってるよお!
ギャー!ギャオーン!
えっ?どうしたの?
雄叫びを上げちゃって!
あっ!そうか。
ずり落ちそうになって、怖かったんだね。
ゴメンゴメン。
お前案外怖がりだねえ。
怖がりってあんた。
そりゃあ怖いでしょ。
身の危険が迫ってるのよ!
落ちたら只事じゃないわ。
ニャオーン、ニャオーン!
そうだな。怖い思いをさせてゴメンな。あそこのベンチに座ろうか?
お願いだからそうしてちょうだい!
ニャーン。
恭平は、私を岸壁に一旦置いてから、立ち上がりました。
そしてまた私を抱いて、ベンチに座りました。
ここからだと、夜の海がよく見えます。
私は、安心して恭平の膝の上で丸くなりました。
これで、ずり落ちて海の中へ真っ逆さまっていう緊急事態は逃れました。
恭平は、シルエットになっている大型船がゆっくり水平線の上を動いている姿を眺めていました。
遠くでボーッという汽笛が聞こえます。
しばらく静かな時間が流れていました。
俺さあ、どうしてみんなと違うんだろう。
いつも落ち着きがないとか、不注意だとか言われて、怒られてばっかりだし・・・
カーッとなって、すぐに殴っちまうし・・・
俺の中に悪魔が住んでるんだよ。
そいつが俺に囁くんだ。
周りはみんな敵だって。
えーっ!悪魔が住んでるですって?
それは違いますよ。
恭平の特性がそうなんであって・・・
ニャオーン、ニャン。
この前、クラスの女子が、俺がいるから、学級が滅茶苦茶になってるって言ったんだ。
俺が仲間を煽って、先生に反抗してるって。
そんなことしてないのに。言いがかりだよ。
でも、先生に反抗的なのは確かなんだ。
あいつは、俺を目の敵にして、何でも悪いことは俺のせいだって言うんだ。
それで、キレて、先生を殴ったんだ。
校長室に連れて行かれて、先生を殴るなんて絶対に許せない行為だって。
校長先生にも怒られた。
でも、俺の言うことなんか、誰も聞いてくれない。
それは、大変なことになったのねえ。辛いよねえ。悔しいよねえ。
ニャーン、ニャン、ニャン
私は、恭平の胸に伸び上がって、身体を擦り付けました。
ゴロニャーン、ゴロニャーン
なんか、俺の気持ちわかってるみたいだね。
ドクドク、恭平の心臓の音を聴きながら、私は、頭を胸にスリスリしました。
爪を出さないようにして、恭平の頬に手を伸ばしました。
お前、俺を慰めてくれてるの?こんなデブ猫に慰められるとはねえ。
ちょっと!デブ猫は言い過ぎよ!ギャオーン
俺さあ、自分が大っ嫌いなんだ。
何をやっても、ヘマばかりだしさあ。
カーッとなると、自分が抑えられない。
父さんと母さんが校長室に呼ばれてさ。
『お宅ではどんな躾をしているんですか?
教師を殴るなんて、前代未聞ですよ。
毎日、物を壊すし、教室で暴れるし、友達とのトラブルも絶えない。
こんな調子では、学校としても考えなければいけません。』って言われたそうなんだ。父さんが怒って言ってた。母さんは泣いてたし・・・
酷いことを言われたんだねえ。
お父さんもお母さんもショックだったでしょうね。
両親を失望させて恭平も辛いよねえ。
自分のことが嫌いになってもおかしくないよね。
わかるよ。辛いねえ。
ニャーン、ゴロゴロ、ニャーン。
俺なんてもう居なくなった方が良いんだ。
俺が消えれば、父さんだって母さんだって、苦しまなくてすむし。
可愛いくて賢い恵(妹)だけを可愛がれば良いんだから・・・
なんてことを言うのよ!
それは違うよ、恭平。
絶対間違ってる。
お父さんもお母さんもそんなこと望んでないよ!
ギャーオ、ギャーオ、ギャン!
なんて声出すんだよ!
ビックリするなあ。
怒ってるの?なんで?
俺が居なくなれば良いって言ったから?
それで怒ってるの?
犬だったら上手に吠えるんでしょうけど、私は猫だから、吠え方がわからない。
でも、気持ちは通じたみたい。
私は、恭平の胸に両手を添えて、モミモミしました。
ありったけの気持ちを込めて、モミモミ。
怒ったり、優しくなったり、忙しいデブ猫だなあ。
なんか、励まされてる感じ。
そう言って恭平は、私をギュッと抱きしめました。
だから、力の入れすぎだって!
潰れそうよ!
助けて!
ギャオーン
ゴメンゴメン、強すぎた?
俺いつもこうなんだよな。
力を入れすぎるんだ。
調節ができないっていうか・・・
恭平はまた、ションボリしてしまいました。
悲しいよね。自分の嫌なとこばかりが見えている状態は。
でも、私は知ってるんだ。
恭平の優しいところ、仲間思いのところ、不器用でも一生懸命やるところ・・・どうにかして伝えられないものかしら?
私は、恭平の頬を舐めました。ザラザラ、ザラザラ。
お前、くすぐったいよ!さらに言えば、ザラザラしてて痛いよ。
お前自分の舌がザラザラだって知ってる?
そうだった。気持ちを伝えようと思ったけど。
私の舌って、猫舌だった。
ザラザラしてるのよね。
なんかさあ。お前といると、自分が好きじゃないことなんか、全然大したことじゃない気がしてきた。
恭平は、私の背中から尻尾までをゆっくり撫でながら言いました。
俺、もう父さんや母さんには会わないつもりで、家を出て来たんだ。
申し訳なくってさあ。
そんな!
小学校5年生で、そんな悲しいこと言わないでよ。
きっとお父さんもお母さんも心配してるって!
今頃は気が変になりそうなくらい必死で探してると思うよ!
ニャニャニャーン!
やっぱり、家に帰る方が良いよなあ。
そうするとするか。
恭平は、私を抱き上げて、スタスタと歩き始めました。
岸壁の倉庫街を通り越して、ショップが並ぶ界隈へ。
それにしても、お前って本当に重いなあ。
何キロぐらいあるんだろう?
腕が痺れて来たよ。
そうでしょうとも!10キロはあるもんねえ。重いと思うわ。
ショップ街を通り抜けて、大きな道路があるところまで来ました。
信号のある横断歩道で立っていると、道路の向こうに人影が・・・
恭平!恭平なの?
まさか、海岸まで行ってたなんて。
恭平!探したんだぞ!
恭平は、しばらく呆然とお父さんとお母さんを見ていました。
信号が変わって、恭平は、私を抱いたまま、横断歩道を渡り始めました。
向こうからは、お父さんとお母さんが駆け寄って来ました。
横断歩道の真ん中で、一緒になりました。
恭平、夜遅くに、こんなところまで1人で来るなんて!
心配でおかしくなりそうよ!
そうだぞ。
恵を1人家に残して、必死で探したんだぞ!
無事で良かったよ。
横断歩道を向こう側に戻りながら、お父さんが言いました。
ごめんなさい。心配をかけて。
俺が居なくなった方が、父さんも母さんも楽になると思って・・・
何を言ってるんだ。
人間だから失敗することもあるさ。
恭平はそのままで、私達の宝物なんだぞ。
居なくなられたら、生きていられないほど辛いんだぞ!
そうよ。恭平が居ない人生なんて考えられないわよ。
私達の大切な大切な子どもなんだから!
恭平は黙ったまま、静かに涙を流していました。塩っぱい涙が、私の顔に落ちて来ます。
ところで、そのブットい猫はどうしたんだい?
海で拾って来たのかな?
お父さん!ブットい猫なんて、失礼しちゃうわねえ!
俺が岸壁で海を見ている時に、そばに走って来たんだ。
こいつ、俺の話を理解してるみたいに鳴くんだよ。
慰めてくれてるみたいにさあ・・・
首輪が付いてるわ。
飼い猫なのね。
マダムMだそうよ。
きっと飼い主さんが、私達みたいに必死で探してるんじゃないかしら。
そうかもしれないな。ここでバイバイしような。
うん、わかった。
ブットい猫ちゃん、バイバイだよ!
そう言って恭平は、私を地面にそーっと下ろしました。
もう大丈夫そうです。心配して探してくれるお父さんとお母さんがいるんですもの。
きっと今回のことも、なんとかしてくれるでしょう。
私は3人が、住宅街の方に帰っていくのを見送っていました。
良かったなあ。
一時はどうなるのかって心配したぜ。
いつの間にか、DJジョーとカーチャ、ロックがそばに来て、一緒に3人の後ろ姿を見ています。
本当にありがとうね!
あなた達のお陰で、無事に家に帰ってくれてるわ。
良いってことよ!
それより、マダムM。
どうやって帰るの?
大丈夫よ。
図書館の駐車場で、マイダーリンが待っててくれてると思うわ。
クッキングパパのマイダーリンね。
いつも美味しいご飯を作ってくれるんでしょ?
そうなの、とっても優しいのよ。
道理で、その身体になるはずだよな!
気をつけて帰りなよ!
ありがとう!またね!
私は、みんなに別れを告げて、図書館のある方に歩いていきました。
図書館はもうとっくに閉まっていますが、駐車場に1台だけ残っている車があります。
マイダーリンの車です!
私は車に向かってダッシュしました。
おやおや、そんなに急いで何処に行くんだい?
ダーリンが、車から降りて来て、私を胸に抱いてくれました。
おや、潮の匂いがするよ。
海の方に行ってたのかい?
随分遠くまで行ってたんだなあ。
そう言いながら、私を助手席に乗せました。
そんなに遠くまで行ってたんなら、お腹がすいたろう。
帰って何か美味しいものでも作ろうな。
嬉しい!お腹がすいて、ヘトヘトよ!
ニャーン。ニャン!
ダーリンは、私の顔を見て、ニッコリ笑って、顎の下を掻いてくれました。
ゴロゴロゴロゴロ、ゴロニャーン
気持ちいいんだね。
それじゃあ、帰ろうかね。
ダーリンの車の助手席から、遠くの海が見えます。
自分のことが好きになれない恭平のことを考えながら、遠くに灯る街並みの夜景を見ていました。
どうしたら、自分のことが好きになるんだろう?
難しいかもしれませんが、自分のことを好きになって欲しいと強く願っています。
何かできることはないかなあ?と考えている、とらネコ先生ことマダムMでした。
第12話 とらネコ先生 吠える?(後編)に続く