第9話 とらネコ先生 登る(前編)怒りを抱え込んでいる優也の場合

第8話 とらネコ先生 濡れる をご覧になりたい方は→こちらをクリック

私の愛するトラ猫「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が!なんと!私はとらネコ「ミューニャン」に変身してしまったのです!!

こうして私は、昼間は「レインボー塾」の先生(通称レインボーばあば)として、レインボー塾に通う子ども達を支援し、夜はとらネコ「ミューニャン」通称マダムM)として、猫の仲間達と一緒に暮らす毎日を送るようになりました。

とらネコ先生とレインボー塾の子供たちアイコン

団地(UR)のネコ仲間たち

この頃急に寒くなって、夏から秋を抜かしていっぺんに冬になっちゃったかと思っていたら、今日は珍しく暖かな夜です。

私は、久しぶりに団地(UR)への坂道を登って行きました。

高台にあるこの団地(UR)は、街を見下ろしながら、何棟も連なって立っています。

昔はこの辺りは全部山で、数十年前に、近隣のベッドタウンとして開発されたのです。

当時は洒落た団地(UR)ができて、たくさんの人々が住んでいました。

でも、今ではマンションや一戸建ての家が立ち並び、団地(UR)に住む人が減っているそうです。

高台にある団地(UR)の公園が、ネコの仲間たちの集会所です。

ハアハア、ハアハア、上り坂って辛いわ。どうしてあんなに高いところにあるのよ!

私は息を切らしながら、公園への最後の階段を登って行きました。

それにしても、この階段の急なこと!こんなに傾斜がキツイと登りきれないわ!

ハアハア、ハアハア、もう倒れそうよ!ハアハア、ハアハア

失神しそうになりながら登っていくと、やっと公園にたどり着きました。

昼間は子ども達の歓声が聞こえ、それを見守っているお母さん達がベンチでおしゃべりを続けます。でも、今は誰も遊んでいません。ひっそりと静まり返っています。

夕暮れ時のベンチには誰も座っていません。

ブランコが風に揺れて、ユラユラと動いているだけです。

 

暗い東屋を目を凝らして見ると、ぼんやりとネコ達のシルエットが見えます。みんな、今夜は暖かいので、団地のあちこちから集まってきたのでしょう。

私は息が整うまで、階段の1番上でじーっとしていました。だって、ハアハア言ってたら、また何を言われるやら!

少し経ってから、東屋に近づいて行くと、ベンチの上で優雅に寝そべっていたサーシャがこっちを見ました。

サーシャ
サーシャ

あら、マダムM。久しぶりね。元気そうだこと。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

サーシャも元気そうね。毛並みもツヤツヤしてるわ。今夜は暖かいわね。

サーシャはサビ猫です。とっても美人じゃなくて美ニャンです。

カイト
カイト

このところズーッと寒かったからなあ。

お天道様は秋を忘れちゃったんじゃないかと思ってたよ。

東屋のベンチの下からノソノソ出てきながら、カイトが言いました。カイトは黒白のネコです。

ルー
ルー

そうよね。今年はいつまでも暑くって、夏はいつ終わるの?って思ってたけど、いきなり寒くなったもんね。身体に悪いよねえ。

東屋の柱の陰からこう言いながら出てきたのは、この辺では珍しいポインテッドのルーです。

ジョー
ジョー

本当に急に寒くなったから、寝ぐらを見つけるのに苦労するぜ!

自転車置き場なら少し暖かいぞ!

影武者のように颯爽とやってきたのは、黒猫のジョーです。黒豹のような身のこなしで、木登りも得意です。

ジョー
ジョー

おやおや、マダムMじゃないか。

さっき、随分ハアハア言いながら階段を登ってたろう。

見ていて、声をかけたもんかどうか迷ったよ。

あんまり苦しそうだから遠慮しといた。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ジョー、失礼しちゃうわね。

ハアハアなんて言ってません。

駆け上ってきたのよ!

私は見栄を張って言いました。

ジョー
ジョー

そういうことにしとこう。

まあ、何回も上り下りしたら、もっとスリムになるかもよ!

カイト
カイト

本当だなあ。もう少し身を軽くすると、塀に登るのも簡単になるぜ。

カイトが余計なことを言ったので、猫パンチの真似をしました。

カイト
カイト

おっと、怒らせちゃったか。元気なのはよくわかったよ。

ジョー
ジョー

ところでさ、さっき第2公園のベンチに、優也がまたいたよ。

ジョーが肉球を舐めながら言いました。肉球はピンク色をしてるんです。可愛い。

ルー
ルー

たしか、レインボー塾の子どもだったよね。

ルーも心配そうに言いました。

カイト
カイト

この前、大暴れしたって話してたよな。

カイトが思い出すように言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

優也なら、レインボー塾の4年生の子よ。

前にも話したけど、最近引っ越してきた子なの。

学校で大暴れして大変だったって、おばあちゃんが言ってた。

家でも物を壊したり、ガラス窓を割ったりするそうよ。

心配していたのよね。

私は優也の顔を思い浮かべながら言いました。

優也は他府県の施設で育っていたところを、最近お父さんに引き取られたのです。

お父さんは仕事で忙しいので、いつも優也のお世話はお父さんのお母さん、つまり優也にとってはおばあちゃんがしています。

優也にしてみれば、お父さんもおばあちゃんも知らない人と同じでしょう。環境が急激に変わったので、戸惑いと不安な気持ちでいっぱいだと思います。

ジョー
ジョー

それにしても、優也はよく公園のベンチに座ってるよな。

いつもリュックサックと毛布を持って。

サーシャ
サーシャ

そうなの?家を飛び出して来ちゃったのかなあ。心配ね。

サーシャがベンチに座りながら言いました。サーシャも心配してくれています。

カイト
カイト

大暴れするって言ってたけど、昼間公園で遊んでいる小さい子たちと一緒に砂山作ったり、ブランコで後ろから押してあげたりするのを見たことがあるよ。

優しい目をしてたよ。

ルー
ルー

私も見たことあるわ。

小さい子が転んだ時も、そばに駆け寄って抱き上げて、膝の傷を公園の水道で洗ってあげてたよ。

その子のお母さんが、ありがとうって言ってた。

本当はすごく優しいんじゃないかと思うよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

みんな、ありがとう。

優也の優しいところ教えてくれて嬉しい!

レインボー塾では目つきが鋭くて、怒りっぽいから、SSTでもトラブルが多いのよね。

でも、本当は優しい子だと私も思ってた。

ジョー
ジョー

きっと何か本当に嫌なことが起きて、怒りで心の中いっぱいになってるんじゃないかな。

僕も前の飼い主が遠くに引っ越して、置いていかれた時、心の中嵐が吹き荒れてたもん。

優也の気持ちよくわかるよ。

ジョーが昔を思い出すように言いました。

そういえば、一時ジョーが他の雄猫と喧嘩ばっかりしていた時がありました。

あの時、ジョーの心の中は嵐が吹き荒れてたんでしょうね。可哀想に。

サーシャ
サーシャ

ジョーも辛い思いをしたんだねえ。

でも、この辺りのノラネコは、大なり小なりそういう経験をしている子が多いよねえ。

サーシャがしみじみ言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

私、優也が心配だからちょっと様子を見て来るわ。

第2公園だよね。

確かあそこは木がいっぱい茂っているわよね。

ジョー
ジョー

ああ、そういえば、あそこの木にツリーハウスが作ってあったぞ。最近できたみたいだ。気をつけて行けよ。絶対にツリーハウスに登っちゃダメだよ。その身体じゃ無理だからな。

ジョーが心配そうに言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

大丈夫よ。そんな高い木の上なんか絶対に登らないから・・・

みんな、さようなら。また今度ね!

私はみんなに挨拶をして、階段を降りて行きました。

第2公園は、広い団地の敷地の反対側にあります。

暗い道をトボトボと歩いて行きました。

団地(UR)の、それぞれの部屋に明かりがついています。

きっとみんなで晩ご飯を食べたり、テレビを見たりしているのでしょう。

時々楽しそうな笑い声も聞こえて来ます。

やっと団地の反対側に着きました。

こちらの公園は木々が多く、遊具はあまりありません。

階段を登って、公園内を散策しました。

ベンチがあるけれど、誰もいません。

おかしいなあ。確か、ジョーが公園のベンチに優也がいるって言ってたと思うけど。

もしかしたら、もう家に帰ったのかなあ?

そんなことを思いながら木々のサヤサヤいう音を聞いていました。

ふと、新しくツリーハウスができたって、ジョーが言っていたのを思い出しました。

木がたくさん茂っている場所に行ってみると、噂のツリーハウスがありました。

ハシゴで登っていく形式になっています。

案外頑丈そうにできています。でも、登るのはどうかなあ?

あれっ?あそこの窓に明かりが見えるような・・・まさか。優也じゃないよね?

私はそーっとツリーハウスに近づいて見ました。

灯りは確かに付いています。

窓にゆらゆらと人の姿も、シルエットになって写っています。

きっと優也に違いありません。でも・・・

どうしよう!あそこまで行くには、まず幹を登って、更に梯子を登らないといけません!

ジョーが言ってたように、これは大変な冒険になりそうです。無理かも!

でも、確信はないけど、あそこに居るのは優也だと思います。

ちゃんと確かめないと、今夜寝られそうもありません!

私は恐る恐る木の幹にしがみつきました。

なんと言っても、私はネコよ🐱木登りなんて簡単なはずよね!

木の幹を少しずつずり上がって行くと、梯子の先がブラブラぶら下がっています。

うーんこれかあ。随分上まで伸びてるよねえ!あんな高い所まで!登れるかなあ?

またまた心配の虫が!

えーい!登っちゃえ!

私はまず、梯子の1段目に前足をかけました。ユラユラ、揺れるのよね、これが。

頑張って1段目に後ろ足を乗せて2段目を目指しました。

ユラユラユラユラ・・・なんでこんなに揺れるのよって私の体重がかかってるんだから、当然揺れるわよね。

2段目から3段目へ、そろりそろりと登っていきました。

下は見ちゃダメよ!絶対にダメ!頭がクラクラするからね。

大丈夫。曲がりなりにも私はネコよ!

自分で自分を励ましながら、1段1段慎重に登っていきました。

ブランコで曲芸をしているみたいに、ハシゴは大きく揺れています。

あんまりカッコよくないけど、爪で引っ掛けるようにして、とにかく落ちないように・・・

最後の段に行こうとした時です。

優也
優也

あれ?誰か梯子を登ってる?ユラユラ揺れてるけど。

頭の上から声が降ってきました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

私ですよ、マダムM。

頑張って登ってるんだから、声をかけないでよ。

気が散ると危ないんだから。

ニャオーンニャン

優也
優也

ちょっと待ってて。今行くから。

声の主は、ツリーハウスから出てきました。

私も、ハシゴを無事に登り終えて、ツリーハウスのデッキみたいなところに座り込みました。

何と言っても、大冒険を終えて、心も身体も疲れ果てていましたから。

落ちてたら大怪我をするところだったんだもの。我ながら無謀だったわ。

 

優也
優也

えーっ!狸が登ってきたの?狸って木登りできるんだ

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ち、違いますよ!狸だなんて失礼しちゃうわ。

れっきとしたネコですよ!

ニャオーン、ニャン、ニャン。

優也
優也

あれっ!お前ネコなの?

こんなにぶっとくても鳴き声はネコだよね。

ビックリした⁉️

そんな身体でハシゴ登ってきたの?

物好きだなあ。

幾ら何でも無謀すぎる。

よく落ちなかったねえ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

出てくる言葉が全て胸に突き刺さるわ!

あなたの為に決死の覚悟で登ってきたのにひどいじゃない。

ニャーニャーニャオーン。

優也
優也

それにしても、頑張ったなあ。

どう見ても木登りするタイプじゃないし。

何しにきたの?

まさか俺に会いにきたわけじゃないよな。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そのまさかですよ!

あなたが心配でここまで来たわけですよ。って猫語で言ってもわかるわけないか。

ニャーンニャーんニャン。

優也
優也

まあ、俺も1人だし、ネコの相棒がいたって良いよな。

優也は私を抱いて、ツリーハウスの中に入りました。

中は意外と広くて、テーブルと椅子が置いてあります。床にはラグが敷いてあって、外より暖かくて居心地も良さそうです。

優也のバックパックと毛布も置いてあります。

どうやら、ここで野宿?するつもりみたいです。

優也は床に座り込んで、私を膝の上に乗せました。

優也
優也

お前って本当にぶっといなあ。

何食ってんの?

重いから膝からずり落ちてるよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ホント誰でも同じことを言うのよねえ。

何食ってんの?

まあ、本当のことだけどね。

ダーリンが作ってくれる料理があまりにも美味しくて・・・て言ってる場合じゃないわ。

ニャーゴ、ニャーン。

しばらく、私の背中を撫でながら、優也はテーブルの上のランタンの灯りをジーっと見ていました。

突然、ポツリと

優也
優也

俺、こんなとこに居たくないんだよな。

施設に帰りたいよ。

施設なら友達もいたし、楽しかったもんな。

なんでこんな所にいなくちゃいけないんだ!

父ちゃんって言っても、ほとんど他人だぜ。

小さい頃にいたらしいけど、全然記憶にないもんな。

ばあちゃんだって、全く知らない人だよ。

なんでこんな誰も知らない所に来なきゃいけなかったんだ?

優也はポロポロ涙を流しながら、一言一言噛みしめるように言いました。

私は、いつものように、ザラザラの舌で優也のほっぺたを舐め舐めしました。

優也
優也

お前の舌ってザラザラしてるんだな。

舐めてくれるのは嬉しいけど、ちょっと痛いよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ごめんね。猫の舌はザラザラしてるのよね。

でも優也を慰めてあげたいよお。

ゴロニャーン。

優也
優也

何だか、俺の言葉がわかって、慰めてくれてるみたいだなあ。

それから優也は、窓の外を眺めていました。

木々の茂みの間から明るい月と一番星のように輝く星が見えました。

優也
優也

俺の友達や弟もあの月や星を見てるのかなあ。

一緒に見たかったなあ。

えーっ!弟がいるの?ビックリ⁉️知らなかった。まだまだ秘密がありそうね。

優也
優也

こっちの学校って最低だよな。

何をするのも禁止事項でさ。

みんな一緒にって言われる。

休み時間も全員で遊ぶんだぜ。

信じられないよ。

前の学校は意外と自由でさ。

裏庭で遊んでても誰も文句は言わなかったぞ。

そうなのね。前の生活が懐かしいのよね。

しかも、自分が望んだんじゃないのに、勝手に引き取られて、全く違う環境に放り込まれたんだもの、そりゃあ混乱もするし、不安もいっぱいだよね。

ここに来たことも、何故なのか理解できず、怒りだけが膨れ上がっている状態なのでしょう。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

可哀想に。

辛いよねえ。

ニャニャーン。

ひどすぎる。

ニャニャニャニャーン。

優也
優也

お前俺の気持ちがわかるの?

不思議なネコだなあ。

ニャーンにパワーがあるなあ。

凄い!

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

少し元気が出てきたようです。

良かった!

ニャーンニャーン。

優也はしばらく、私の肉球をプニュプニュしていましたが、突然

優也
優也

ついでに言うと、家も最低だよ。

父ちゃんは仕事で殆ど家にいないし、ばあちゃんの作るご飯は煮物だらけで全然美味しくないしさ。

勉強しろってうるさいしね。

俺小学校は2年生の2学期からしか行ってないんだ。

施設に入って初めて学校ってものを知ったんだ。

だから、小学校1年と2年の1学期間の勉強が全然わからない。

計算の仕方も、漢字も・・・遅れてるから今の学級でバカにされるんだ。

そんなことも知らないのって。

だから俺ついキレちゃうんだよ。我慢できなくて!

今の学校では友達なんてできっこないよ。

体育だって前の学校では得意だったのに、今はサッカー部の奴らがでかい顔してる。足が速いと思ってたのに、奴らには勝てないんだ!

優也は思いを全部吐き出すように、一気に話してくれました。

今まで、どんなに心細くて辛かったんだろうって、私は心が張り裂けそうです。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ニャーン、ニャニャーン、ゴロゴロ、ニャーン。

私は精一杯に気持ちを込めて鳴きました。優也の胸に前足を置いて、フミフミしました。

優也の肩に頭を乗せて、盛大にゴロゴロしました。

優也
優也

くすぐったいなあ。

でも、ちゃんと俺の話聞いてくれてるんだよなあ。

ゴロゴロ言ってるってことは気持ちいいんだな。

なんか、1人じゃないって思えて心強いよ。

そう言いながら、優也はラグの上に寝転びました。

私は優也のお腹の上に寝そべって、ゴロゴロしていました。

優也
優也

お前重いけど、あったかいなあ。毛布がいらないや。

そう言って私の顎の下を優しくくすぐりました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

それよお。それ、大好きなの!

ゴロゴロゴロゴロ、ゴロニャーンニャン。

優也
優也

なんか、お前と一緒にここで寝そべってると、嫌なこと忘れてしまいそうだな

ずーっとお前と一緒にここで暮らせたらなあ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

何を言ってるの?

こんな所で暮らせるわけないでしょ!

もうそろそろお家に帰った方が良いんじゃありませんか?

ニャーンニャン

その時です。下の方から声が・・・

優也のお父さん
優也のお父さん

優也、迎えに来たぞ!

もうそろそろ帰ってこい。

夜は寒いんだぞ。風邪でもひいたら大変だ。

ばあちゃんも心配してるぞ。

優也は、一瞬怖い目つきで窓を方を睨みました。今にも殴りに行きそうです。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

待って、待って。冷静になってよ。

ゴロゴロニャーンニャン。

優也はハッとして私の顔を見ました。

優也
優也

お前のこと忘れそうになったよ。

そうだよな。

お前にも帰る家があるんだろうな。

だって、こんなぶっとい野良猫見たことないもん。

きっと美味しいもん食わしてくれる飼い主がいるんだろうな。

そろそろ帰ろうか?

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ダーリンがいるわ。

毎日美味しいもの食べさせてくれるのよ。って言ってる場合ではないわ。

ニャーンニャーン。

私は優也の胸に頭をこすりつけて、思いっきりゴロニャーンしました。

優也は私をそっとラグの上に置くと、バックパックと毛布を持って立ち上がりました。

優也
優也

父ちゃん、今降りるよ。

でも、相棒が居るんだ。

ちょっと待ってて。

お前どうやって梯子降りるの?

自分で降りれるのか?

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そうだった!

来るときは優也のことが心配で、後先考えずに梯子を登ってきたけど、降りるのってどうしたら良いの?

ワオ!難題だわ。

ニャーゴ、ニャーニャーん。

優也
優也

その身体じゃあ、身軽にジャンプしてってわけにもいかないだろうな。

よっしゃ!俺が抱いて降りてやるよ。

父ちゃん、バックパックと毛布落とすから、気をつけて!

優也は、バックパックと毛布を下に落としました。

優也のお父さんが見事にキャッチして、木の根元に置きました。

優也に抱っこされてというか、胸にしがみつきながら、梯子を降りていきます。

優也はとても敏捷で、スイスイ梯子を降りました。

優也のお父さん
優也のお父さん

優也、心配したぞ。

おや、胸にぶら下げてるのはなんだ?

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ぶら下げてるはないでしょう。

ニャーン!

優也のお父さん
優也のお父さん

こいつ、ネコなのか?

どう見ても狸だよなあ。

お前が助けたのか?

優也
優也

違うよ、父ちゃん。

このネコは相棒だよ。

俺のこと好きみたいだ。

なんかスッキリした。

優也のお父さん
優也のお父さん

そうか。良かったなあ。

ばあちゃんがすごく心配してたぞ。

お腹すかしてないかって。

晩御飯も食べずに飛び出して行ったんだってな。

家に帰ってご飯を食べような。

優也
優也

心配かけてごめん。でもムシャクシャしてて・・・

優也は私を木の根元に下ろしながら言いました。

優也の気持ちがよくわかります。きっとまた家で暴れてしまうので、外に出たんでしょう。

私は優也の足首の所でぐるぐる回ってゴロニャーンしました。

優也
優也

そうか、お前もバイバイするのが寂しいんだな。

でも、もう家に帰れよな。

優也は私の頭を撫でて、バイバイしました。

優也とお父さんが連れ立って歩く後ろ姿が、木の合間から見え隠れしながら、遠ざかっていきます。

優也のお父さんは、優也の肩を抱いて、優しく話しかけています。

無言でウンウン頷きながら、優也が毛布を抱きしめているのが見えます。

お父さんは優也の気持ちがわかっているかなあ?

優也を心配しながら、団地(UR)の駐車場まで歩いていきました。

団地(UR)の駐車場で1つヘッドライトが付いている車があります。

ダーリンの車です。私は嬉しくて駆け寄りました。

ケンゾウさん(ダーリン)
ケンゾウさん(ダーリン)

おや、今夜は木がいっぱいある所に行ってきたのかね?

身体に葉っぱが付いてるよ。

さあ、お腹がすいたろう。

帰ろうか。

ダーリンは私の身体から葉っぱをそっと取ってくれました。

そして、私を抱き上げて助手席に座らせてくれました。

いつも優しいんだから!

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

お腹がすいたよお。

早く食べたいよ!夜食だけど。

ゴロニャーン、ニャン。

愛してる!

優也はあれからどうしてるかなあ?おばあちゃんが作ってくれたご飯をたべてるかな?

優也のことが心配です。

どうしたら優也の心を救うことができるでしょう?

そんなことを考えながら助手席でヌクヌクしているとらネコ先生ことマダムMでした。

 

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