第6話 とらネコ先生 走る(後編)SSTで嫌なことを言われた時の対処法を学ぶ翔太

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私の愛するトラ猫「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が!なんと!私はとらネコ「ミューニャン」に変身してしまったのです!!

こうして私は、昼間は「レインボー塾」の先生(通称レインボーばあば)として、レインボー塾に通う子ども達を支援し、夜はとらネコ「ミューニャン」通称マダムM)として、猫の仲間達と一緒に暮らす毎日を送るようになりました。

とらネコ先生とレインボー塾の子供たちアイコン

レインボー塾での翔太

数日後、翔太がレインボー塾にやってきました。

今日は翔太のグループ5年生のSSTです。

翔太の他にも5人の5年生が集まっています。

レインボーばあば
レインボーばあば

こんにちは、翔太。元気だった?

翔太
翔太

レインボーばあば、こんにちは。まあ元気だよ。

翔太はいつもはニコニコして「残念な生き物」や「ユーチューブで見たこと」などを延々と話しかけてくるのに、今日は肩を落としてションボリしています。

トボトボといった歩き方で、ウエイティングルームに入って行きました。

きっと生き物図鑑を見ていることでしょう。

翔太のお母さんがやってきました。こちらもあまり元気がありません。

レインボーばあば
レインボーばあば

翔太のお母さん。お元気ですか?

翔太のお母さん
翔太のお母さん

レインボー先生、翔太がいつもお世話になっています。

本日もよろしくお願いしますね。

今日は用事があるので、後で迎えにきます。

翔太のお母さんは、そう言って駐車場の方に行こうとしました。

レインボーばあば
レインボーばあば

お気をつけて!

翔太のことは心配しないでくださいね。

お母さんは軽く会釈をして、車の方に向かいました。

ウォーミングアップでの出来事

今日のウォーミングアップは「フリスビー」です。

レインボー塾のフリスビーはウレタンでできているので、当たっても痛くありません。

ふわふわしているので、手で掴むのもそれほど難しくはありません

でも、フリスビーを投げたり受けたりするのは、子ども達にとって難しいことです。

フリスビーまず、投げる練習から始めます。

フリスビーをペットボトルの的に当てる練習です。

翔太はフリスビーを投げるのですが、的に当てるのが難しいようです。

翔太の投げたフリスビーは、的を大きく超えて遠くに飛んで行ってしまいました。

それを見ていた信二が

信二
信二

翔太、どこ狙ってんだよ。投げるの下手だなあ。

と笑いました。

翔太は下を向いてうなだれています。

それを見ていた秀が

秀

ドンマイ。練習あるのみ。

と励ましました。

私はプレイルームの後ろで、ハラハラしながら見ていました。どこで介入したものだろうと思っていましたが、成り行きを見ようと思って、黙っていました。

恭平はうまく的に当てていました。莉奈は何回かに1度当てることができるようになりました。

京子は的に当てるのがとても上手です。

京子
京子

翔太、手首を使って投げたらうまくできるかもよ!

京子は言いながら手首をひねる真似をしてお手本を示しました。

翔太は今度はまっすぐ前を見て、手首のスナップを利かせて投げてみました。

もうちょっとで的に当たるところでしたが、残念ながら的には当たりませんでした。

莉奈が

莉奈
莉奈

私も難しいんだ。もう少し右から投げてみて

とアドバイスをしました。

翔太は顔を真っ赤にして、今度は少し右から投げました。

的に当たったので、翔太が1番びっくりしていました。

京子も莉奈もハイタッチをしました。秀はガッツポーズをしました。

今度は、受ける練習です。

これは、投げるよりも難しいです。

両手で挟んでも良いし、指でつかんでも良いし、受け方は自由です。

でも、受けるタイミングが難しいです。

また、投げる側の投げ方が非常に重要です。

相手が受けやすいところに投げるということは、的に当てるよりも数倍スキルが要ります。

2人1組でフリスビーを受ける練習をします。チームはグーチョキパーで決めました。

グー組が、翔太信二になりました。

チョキ組が、京子秀、パー組が莉奈恭平です。

信二が投げたフリスビーを翔太が受けようとするのですが、うまく取れません。

何回もやり直して、受けようとするのですが、動きが遅いので取ることができずにいます。

信二
信二

どんな取り方だよ。1つも取れてないじゃん。ホント、ノロマだなあ。

翔太
翔太

ごめん。うまくできないよ。

翔太はションボリして言いました。

それを見ていた秀が

秀

信二、お前うまいんだから、翔太が取りやすいように投げてやれよ。

と言いました。

信二
信二

なんでだよ。

俺が悪いみたいじゃないか。

こいつがノロノロしてるから取れないんだよ。

信二は顔を真っ赤にして怒りました。

莉奈
莉奈

でも、相手のことを見て投げるのが上級者だよ。

相手を責めるんじゃなくてさ。

莉奈がうまい具合に恭平に投げながら言いました。

信二
信二

こいつと組んでないからそんなこと言えるんだよ。マジ最低。

こんなやつと一緒じゃあ1回も受けられないさ。

誰か代わってくれよ。

信二はむくれて言いました。

翔太は床に座り込んで、下を向いています。涙ぐんでいるようです。

私は、そろそろ行った方が良いかなあと思っていると、スタッフのジュンヤさんが動きました。

ジュンヤさん
ジュンヤさん

翔太、大丈夫か?ちょっと休もうか?

ジュンヤさんが翔太に声をかけました。

理奈と恭子がジュンヤさんの横に来て、翔太の顔を見ています。

莉奈
莉奈

信二、本当に酷いじゃない。

こんなに傷ついてるのがわからないの?

莉奈が憤慨して言いました。

京子
京子

そうよ、何もそんなこと言うことないじゃない。

京子も信二に詰め寄りながら言いました。

信二
信二

でも、そいつが悪いんだよ。

俺は本当のことを言っただけだ。

信二も負けずに言い返しました。

恭平が翔太の横に座りました。

恭平
恭平

気にすることないよ。

うまくできなくても良いじゃん。

練習すればきっとできるようになるよ。

今度は僕と組んでみる?

翔太
翔太

・・・・ううん、迷惑かけるから、僕はもうやらないよ。

翔太は下を向いたまま言いました。

京子
京子

迷惑なんて思わなくて良いのに。

誰でも苦手なことがあるよ。

京子が言いました。

それでも、翔太はプレイルームの端っこに行って壁にもたれてへたり込んでしまいました。

信二
信二

だいたい、運動をちゃんとしないからそんな身体になるんだよ。

だから、動きも鈍い

ちゃんと運動をして鍛えないと。

信二がまだブツブツ言っています。

ジュンヤさんが

ジュンヤさん
ジュンヤさん

みんな翔太を心配してくれてありがとうな。

この続きはSSTでやろうか?

と言いました。みんなが頷きました。

翔太の代わりにジュンヤさんが信二の相手をして、フリスビーの投げ合いをしました。

京子と秀も上手に投げ合いをしています。

莉奈が翔太のすぐ近くで恭平と投げ合いをしています。

恭平の投げたフリスビーが翔太の近くに落ちました。

莉奈
莉奈

翔太、それ投げてよ。

と莉奈が叫びました。

ズーッとみんなの動きを見ていた翔太は、まだ座り込んだままでした。

恭平
恭平

オーイ、頼むよ。

莉奈に投げてやってよ。

そうじゃなきゃ、俺が莉奈に怒られるよお。

恭平が怖そうな顔をして言いました。

翔太は渋々立ち上がって、フリスビーを取りました。

そして、莉奈めがけて投げました。

莉奈は大きくジャンプしながら翔太の投げたフリスビーをキャッチしました。

恭平
恭平

ナイスキャッチ、さすが莉奈。

恭平が笑顔で言いました。

翔太は少しニコッとしてまた座り込みました。

恭平
恭平

なあ、3人でやってみないか?

恭平が翔太を誘いました。

翔太
翔太

でも、僕がいると迷惑だし・・・うまく投げれないし・・受けるのも下手だし・・・

翔太がブツブツ言っていると、

莉奈が

莉奈
莉奈

は?聞こえないんだけど。

翔太が上手に投げてくれたから、私キャッチできたよ!

頑張ればできるって!

と笑いながら言いました。

恭平も

恭平
恭平

カモン!ベイビー。

とふざけて翔太の手を取って立たせました。

翔太は2人の陽気さに誘われるように壁を離れてフロアーに入ってきました。

莉奈
莉奈

行くよ翔太!取ってよね。

と莉奈がフリスビーを投げました。

フリスビーは翔太の真ん前に飛んできました。

翔太は両手で挟んで取ることができました。

莉奈
莉奈

ナイス!うまいじゃん

莉奈が嬉しそうに笑って言いました。

恭平
恭平

ホント、バッチリだ!

恭平もニコニコして言いました。

今度は翔太が恭平に投げる番です。

翔太の投げたフリスビーは恭平の右に飛んで行きました。

恭平は大きく手を開いて、右にダッシュしました。

なんとか指の先でフリスビーをつまんで取ることができました。

でも、勢い余って転んでしまいました。

莉奈
莉奈

ナイスタックル!すごいわ。根性ある。

莉奈が拍手をしました。

転びながら指先でフリスビーを挟んでいた恭平は

恭平
恭平

でへへ、どんなもんだい!

と照れ笑いをしました。

それから3人は、ワイワイ言いながらフリスビーを回していました。

いつの間にか、秀と京子が3人を見ていました。

翔太が取ったり、投げたりするときに「ナイス!」とか「良いぞ」とか応援をしていました。

信二はジュンヤさんとフリスビーの投げ合いをしながら、横目でその様子を睨み付けるように見ていました。

ジュンヤさんは何も言わずに、フリスビーの投げ合いに夢中になっているフリをしていました。

 

しばらくして、リラクゼーションタイムになりました。

音楽を聴きながら、床に寝そべったり壁にもたれたりしてリラックスします。

翔太はさっきより少し元気になって、床に大の字になって目をつぶっています。

コミュニケーションタイムでの出来事

今日のコミュニケーションタイムは、ジェスチャーゲームです。

1人がカードをひいて、書いてあるものをジェスチャーで表現します。

見ていた友達は、相手の動きを見て、答えが何かを想像します。

答えがわかったら、手を挙げて、当たったら言います。

答えが合っていたらみんなで拍手をします。

非言語的なコミュニケーション力を養うゲームです。

動きや表情を読み取って、答えを探します。

ジェスチャーをする方は、みんなが答えを見つけられるようにわかりやすく表現しなければいけません。

見ている方は、動きを見ながら自分の経験や知識と照らし合わせて推理します。

声を出したり言葉を言ったりしたら反則です。全て動きだけで表現します。

発達障害などで「生き辛さ」を感じている子ども達にとって、非言語的コミュニケーションはとても難しいです。

相手の動きや表情を読み取ることが苦手な子どもが多いです。

言葉ではなく動きで表現することも得意ではありません。

また、想像力を働かせることは至難の技なのです。

これらの能力を養うためには、ジェスチャーゲームはとても有効な手段です。

レインボー塾では、コミュニケーションタイムに様々なゲームを取り入れていますが、ジェスチャーゲームは中・高学年でよくやるゲームです。

秀がカードを引きました。

お題は「ギターを弾いているところ」です。

秀はロックンロールのように、頭を振りながらギターを弾いている真似をしました。

真っ先に答えたのが翔太でした。

翔太
翔太

リズムに乗ってる。

ギターを弾いてるんだね。

秀

すごい!翔太。よくわかったね

秀がビックリして言いました。

翔太
翔太

だって、カッコいいよね。秀

翔太は笑顔で言いました。

秀

えっ!俺カッコよかった?

秀もまんざらではない表情でニコッと笑いました。

恭平
恭平

なんか、頭振り乱して狂ったのかと思ってたら、ギター弾いてたんだ。

あれでよくわかったな、翔太

恭平が笑いながら言いました。

秀

ひどいなあ。兄ちゃんの真似したのに。

秀が怒っているフリをしながら言いました。

翔太
翔太

僕ロックが好きなんだ。

大きな音は苦手だけどズンズンってお腹に響いてくるリズムが好きなんだよな。ズンズンって。

翔太がボソボソと言いました。

秀

へえ、以外。人は見かけによらないってこのことだな。

秀が感想を言いました。

莉奈も京子も笑っています。

次は信二の番です。信二はカードを見て戸惑った顔をしました。

信二が動き出しました。

手を滅茶苦茶に振って足をドンドン鳴らしています。

みんな

レインボー塾の子ども達高学年
レインボー塾の子ども達高学年

???

黙って見ていますが、サッパリわからないようです。

恭平
恭平

おい、どうしちゃったんだよ。頭おかしくなった?

秀

全然わからないよ。

京子
京子

本当にわからないわよ。

莉奈
莉奈

なんで手を振り回してるのよ。足もドンドン言わせて。

何かが取り憑いてるの?

みんな口々に言いました。

翔太
翔太

多分だけど、楽器弾いてるよね。

翔太が恐る恐る言いました。

秀

えーっ!あれで楽器弾いてんの?

秀が大声で言いました。

翔太
翔太

多分ね。ドラムかなあ。足でトントン、リズムとってるでしょ。

翔太が自分も足を動かしながらリズムをとる真似をしました。

恭平
恭平

ヘーッ!そうなんだ。

あまりに変な動きで全くわからなかったけど、リズムねえ。

恭平も足をトントンさせながら言いました。

莉奈
莉奈

あっそうか。手でドラムを叩いてるんだ。振り回してるんじゃなくて。

莉奈が納得したように言いました。

恭平
恭平

ドラムを叩いてるところかあ。流石に翔太の推理は尊敬に値するなあ。

恭平が感心しながら言いました。

京子
京子

ホント、ロック好きなだけあるわ。

京子も翔太を見ながら言いました。

信二
信二

やっとわかったのかよ。遅いよ。もうクタクタだ。

信二がフーッと息を吐きながら言いました。

信二
信二

なんでわかんないんだよ。

手でドラムを叩いて、足でリズムを取ってたのにさあ。

何回も繰り返して見せてやってたのに!

信二が今度は怒り気味に言いました。

京子
京子

だって、ねえ。

京子が、秀の方を見て言いました。

秀

そうだよ。あれで気づけって言う方が無理があるよなあ。

秀は恭平の方を見て言いました。

莉奈
莉奈

つまり、あれで気づいた翔太は本当にすごいよねえ。

莉奈が翔太の肩を叩きながら言いました。

信二
信二

フン、ジェスチャーゲームなんて大嫌いだ!

信二はそう言いながら席に座りました。

ジェスチャーゲームの教材

SSTジェスチャーゲーム「何をしているところでしょう?」

ジェスチャーゲームネタカードpdf

SSTのテーマ  嫌なことを言われたりされたりしたら?

今日のSSTのテーマは、「嫌なことを言われたりされたりしたらどうする?」です。

ロールプレイを見よう

はじめにスタッフがロールプレイをします。

1人(マリコさん)がフリスビーを投げているジェスチャーをしています。

もう1人が

ヨシオさん
ヨシオさん

お前投げるの下手だなあ。全然的に当たってない。

と言いました。

フリスビーを投げるのがうまくできない人(マリコさん)は泣いてしまいました。

考えてみよう

ジュンヤさん
ジュンヤさん

今のロールプレイを見て、気がついたことやわかったことを発表しよう。

どうだった?

と聞くと

信二が

信二
信二

本当のこと言われたからって、泣くことないよ。大したことないもん

と言いました。

信二はさっきのことを思い出しているのでしょう。

信二は頭に浮かんだ言葉をそのまま不用意に口走って失敗をすることが度々あります。

京子
京子

そんなことないよ。下手だって言われたらすごく傷つくと思うよ。

秀

でも、泣くほどのことじゃないと思うな。下手なら練習すれば良いじゃん。

秀は信二が言ったことも一理あるなという風に言いました。

信二
信二

そうだよ。本当に下手だったし、動きも鈍かったもんな。

言われたくなかったら練習すれば良いんだ。

莉奈
莉奈

でも、人は誰だって苦手なことがあるよ。

信二だってジェスチャー苦手だったじゃん

信二
信二

そんなことないよ。

あれは当てられなかったみんなが悪いんだ。

俺は苦手じゃない。

それにあんなお題を出す先生も悪い。難しすぎる。

信二が怒って言いました。

ジュンヤさん
ジュンヤさん

そう思っているんだね。

信二はみんなに「わからない」って言われた時、どんなこと思った?

ジュンヤさんが信二に聞きました。

信二
信二

どんなって。なんでわからないんだよって思った。

こんなに一生懸命やってるのにって。

頭おかしくなったって言われた時は本当に悔しかった。

おかしいのはお前の頭だろうって言い返したかった。

本当に嫌だったよ。

ジュンヤさん
ジュンヤさん

そうだよな。一生懸命やってるのに、わからないとか頭おかしくなったとか言われたら本当に嫌だよなあ。

そんな時どうしたら良いと思う?

信二
信二

相手をぶん殴ってやる!

ジュンヤさん
ジュンヤさん

それじゃあ喧嘩になってしまうよね。それでうまくいくと思う?

信二
信二

喧嘩になっても、腹が立ったんだから気持ちが収まらないよ。

相手に痛い思いをさせないとな!

恭平
恭平

でも、それだと、その時は良いかもしれないけど、後から嫌な気持ちにならない?

俺も前に信二と同じように、嫌なこと言われて、相手を殴ったことがあるんだ。

相手も殴り返してきたからまた殴った。

相手が鼻血を出して、他の子が先生を呼んできてさ。

結局先に殴った俺が悪いってことになって、相手の家に謝りに行かされたんだ。オカンも一緒に。

本当に嫌だったよ。

恭平がその時を思い出すように、遠くを見ながら言いました。

京子
京子

暴力じゃ解決しないと思うな。

だって、相手はなんで殴られたのかわかってないでしょ。

恭平が嫌な思いしたこと相手に伝わってないんじゃないかな。

京子が恭平の方を向いて言いました。

莉奈
莉奈

そうだよね。相手は自分が悪いと思っていないから、恭平が一方的に暴力を振るってきたと思ってるんだよ。

でも、元々はその子がそんな言い方しなかったら喧嘩にもならなかったんだもんね。

恭平の気持ちなんか全然わかってないよ。殴り損だと思うな。

タロウさん
タロウさん

翔太はどう思う?

嫌なこと言われたらどうしたら良いと思う?

やっぱり殴るのかな?

今度はタロウさんが翔太に聞きました。

ずっと黙って下を向いている翔太の意見を聞こうとしたのです。

翔太
翔太

僕は・・嫌なことばっかり言われてるんだ。

学校でも6年生にキモいって言われてるし・・・僕は何をやってもうまくできないし、迷惑かけてばっかりだから・・・殴りたくても殴れないし、結局いつも逃げてるんだ。

相手の顔を見ないようにして、フリーズするんだ。

秀

フリーズって凍るってこと?冷凍庫の中に入るの?

秀が真面目な顔で言いました。

莉奈
莉奈

違うよ。きっと翔太は体が固まって動けなくなるんだよ。

嫌なことを受け入れられないから、そうやって防御してるんじゃないかな?

莉奈が京子の方を見ながら言いました。

京子
京子

私もそうだと思うな。

でも、それだとやっぱり相手には翔太の気持ちは伝わってないと思うよ。

あいつ変なやつぐらいにしか思ってないよ。

自分の言葉が翔太を傷つけてるとは思ってないんじゃないかな。

京子は自分のことのように翔太の状況を分析しています。

タロウさん
タロウさん

殴るのもうまくいかない。

フリーズするのも相手に気持ちが伝わらないってことかな?

だったらどうしたら良いのかなあ?

タロウさんがみんなに問いかけます。

みんなはしばらく黙って考えています。

京子
京子

やっぱり、嫌な気持ちを言葉で伝えなくちゃいけないと思うな。

京子が考えながら言いました。

秀

どうやって伝えるのさ?結構難しいよ。

秀が京子の方を向いて言いました。

恭平
恭平

フリスビーの例をとって言えば、

『僕はフリスビーが苦手なんだ。

だからうまくできないけど、下手だって言われるのは嫌なんだ。』

って言うのはどうかな?

恭平が考え考え言いました。

莉奈
莉奈

それ良いかも。どう信二?

信二
信二

えっ?俺?そうだなあ。自分で苦手って言ってるのに下手って言いにくいよな。

嫌だって気持ちは伝わるよ。良いんじゃないかな。

信二は渋々という感じで言いました。

京子
京子

それに、

『僕はうまくできないから、教えてくれたら助かるな。』

って言うのはどう?

恭平
恭平

それ良いんじゃない?教えてって言われたら相手は悪い気がしないと思うな。

やってみよう

ジュンヤさん
ジュンヤさん

それじゃあ、さっきみんなで話し合ったことを、実際にやってみようか?

ジュンヤさんがみんなに言いました。

さっきスタッフがやっていたロールプレイを、今度は子ども達同士でやってみます。

最初に京子がフリスビーを投げるふりをします。

秀が

秀

下手だなあ。全然当たってないぞ

と言います。

京子
京子

フリスビー投げるのうまくできないんだ。

でも、下手だって言われるのは嫌だな。

秀教えてくれるかな?

と京子が秀の方を向いて言いました。

ジュンヤさん
ジュンヤさん

みんな、今のロールプレイを見てどう思った?

みんなは「良いね👍カード」を一斉に出しました。

そんな風にして子ども達同士で順番にやっていきました。

最後に信二がフリスビーを投げました。

翔太が

翔太
翔太

下手だなあ。どこ狙ってるの?

と言いました。

信二
信二

どこって・・・あっそうだった。

『俺はフリスビー苦手なんだ。

でも下手だって言われるのは超ムカつく。

翔太教えろよ。』って言うんだった。

信二が台詞のように言いました。

信二
信二

けど、下手だって言われたら本当にムカつくなあ。

初めて翔太の気持ちがわかった気がする。

ごめんな翔太。

莉奈
莉奈

自分から謝るなんてすごいじゃない。信二。

莉奈が笑顔で言いました。京子も秀もニコニコしています。

恭平
恭平

明日は我が身ってね。

言われてみて初めて分かるんだよな。

でも良かったよ。

恭平もニコニコして言いました。

翔太
翔太

僕は下手だなあって言った時すごく嫌だったな。

信二に悪いなって思った。

信二は本当はとっても上手だしね。

ごめんね。

翔太が言ったので、信二は

信二
信二

謝ることないよ。

ロールプレイなんだしさ。

俺のこと心配してくれてありがとな

振り返ろう

ジュンヤさん
ジュンヤさん

今日のSSTは嫌なことを言われたりされたりしたらどうする?っていうテーマで学習したけど、みんなはどんなことを思ったかな?

気づいたことや感想など発表しよう。

ジュンヤさんがみんなに聞きました。

秀

嫌なことを言われても殴ったりフリーズしたりしないってことがわかったよ。

信二
信二

嫌な気持ちを相手に伝えなくちゃダメだよな。

恭平
恭平

でも、言い方が難しいよ。

かえって喧嘩になる場合もあるよな。

京子
京子

そうそう。言い方って大切だよね。

莉奈
莉奈

なんだか次からはうまくできるかもしれないって気持ちになったわ。

翔太
翔太

僕も学校でやってみようかなって思った。

でも1人で言うのは難しいんだよな。

莉奈
莉奈

翔太、誰か友達はいないの?

先生に相談してみるとか。

一緒に言ってくれる人がいる方が心強いよね。

信二
信二

そうだな。俺が一緒の学校だったら良いんだけどな。

信二が翔太の肩を抱きながら言いました。

翔太
翔太

僕、頑張って先生に相談してみるよ。

SSTの教材

SST「嫌なことをされたらどうする?」

レインボータイム

今日のレインボータイムは、ビーチボールバレーです。(ビーチボールをバレーボールのように使ってプレーするゲーム)

風船ですることもありますが、風船が割れるのを怖がる子どももいるので、ビーチボールを使っています。ビーチボールは割れないし、柔らかいので当たっても痛くありません。

プレイルームでやります。

フローリングの床の上にウレタンマットを敷いて、転んでも怪我をしないようにしています。

コートの中心にテープで線を入れています。

ネットは貼りません。(高さを気にしないでプレーできるように)

低学年グループでは、風船や紙風船やビーチボールをみんなで回していく方法でゲームを進めていきます。

高学年では、バレーボールのように2グループに分かれて、3回で相手のチームにビーチボールを返すやり方です。

得点制で、10ポイント先取したチームが勝ちです。

くじ引きでチームを決めます。

秀・京子・信二のAグループと恭平・莉奈・翔太のBグループです。

Aグループ先行で試合を始めました。

秀がビーチボールをサーブしました。

恭平がレシーブして、莉奈にパスします。

莉奈は翔太のすぐ側にパスします。

でも、翔太は何とかボールに触りましたが、相手のチームに入れることはできませんでした。

信二
信二

よっしゃ!楽勝だぜ。翔太がアタック出来るわけないもんな。

信二が得意げに言いました。

やっぱり思ったことをすぐに口に出してしまう癖は治りません。

その時莉奈が

莉奈
莉奈

翔太、こんな時なんて言うんだったけ?

翔太の方を見て言いました。

翔太
翔太

僕、ボールゲームは苦手なんだ。

でも、そんな風に言われたくないな

本当のことでも、人に言われると凹むよ

翔太は逃げずに、フリーズもせずにちゃんと言いました。

恭平
恭平

凄いなあ。

前は下を向いて固まってたのに、ちゃんと言ってるよ!

信二
信二

本当だな。

俺も言わなくても良いことつい調子に乗って言っちゃうんだよな。

ごめんな。翔太

翔太
翔太

良いよ。気持ちが伝わったってわかったから。

翔太はちょっと自信を持てたようで、やっと少し笑顔になりました。

その後は、点数にこだわる信二と恭平が言い合いをしていましたが、周りのみんなに

莉奈
莉奈

仲良くしないとクビにするよ。

と脅され、

秀

一緒に楽しくやろうよ。参加することに意義があるんだよ。

といなされ

京子
京子

勝ち負けにこだわらないで一緒にゲームを楽しもうよ!

と励まされ

とうとう2人も笑顔になって、楽しくゲームを終えることができました。

さよならの挨拶

SSTが終わって、みんなは教室から玄関ホールに出てきます。

京子
京子

さようなら。レインボーばあば。今日も楽しかった!

レインボーばあば
レインボーばあば

さようなら、京子。良い笑顔ね。

恭平
恭平

さようなら。達者でな!

レインボーばあば
レインボーばあば

恭平も達者でな!

次々に玄関ホールで待っていた保護者の所に戻っていきます。

最後に翔太がやってきました。

翔太
翔太

さよなら、レインボーばあば。またね!

翔太はニコニコして言いました。

レインボーばあば
レインボーばあば

さよなら、翔太。少し元気になった?

翔太
翔太

うん。だいぶマシになってきたよ。パワーもらった感じ。

レインボーばあば
レインボーばあば

それは良かった。また今度ね。

そこに、翔太のお母さんが入ってきました。

翔太のお母さん
翔太のお母さん

レインボー先生、今日はすみませんでした。

実は学校に行ってきたんです。

翔太のことをお話してきました。

また、相談しますね。

今日は時間がないので、失礼します。

翔太のお母さんは、慌ただしく翔太を連れて帰って行きました。

また今度、ゆっくりお話を聞こうと思います。

翔太とお母さんが足早に駐車場に向かうのを、心配しながら見ているレンボーばあばことマダムMでした。

とらネコ先生とレインボー塾の子ども達の話はまだまだ続きます。

どんな子どもが出てくるのか?

どんなネコ仲間が登場するのか?

次回のお楽しみです!

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