第3話 とらネコ先生 ずり落ちる(後編)意見が食い違ったらどうする?

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私の愛するトラ猫「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が!なんと!私はとらネコ「ミューニャン」に変身してしまったのです!!

こうして私は、昼間は「レインボー塾」の先生(通称レインボーばあば)として、レインボー塾に通う子ども達を支援し、夜はとらネコ「ミューニャン」通称マダムM)として、猫の仲間達と一緒に暮らす毎日を送るようになりました。

とらネコ先生とレインボー塾の子供たちアイコン

あの夜のその後

あの夜の続き。

悠人は私の目を見つめて(ちなみに私の目はマスカット色です!)

悠人
悠人

なんかさあ。色々言ったら何だかスッキリしたなあ。

と呟きました。

しばらく、街の灯りをぼんやり見つめて、私の背中をゆっくり撫でていました。

それから悠人は

悠人3
悠人

もうそろそろ帰るよ。

 

と言って、家に帰って行きました。

私は、しょんぼり肩を落としてトボトボ帰って行く悠人の後ろ姿を見送りながら、何かできることはないかなあと考えていました。

レインボー塾での悠人

あの夜から数日後。

悠人がレインボー塾にやってきました。

レインボーばあば
レインボーばあば

こんにちは😃悠人、元気だった?

私はいつものように玄関で子ども達を迎えながら、悠人に声をかけました。

悠人3
悠人

こんにちは、レインボーばあば。まあまあだな

 

悠人はいつも元気いっぱいで走り込んで来るのに、今日はあまり元気がありません。やっぱりあの夜言ってたことを気にしてるのかなあ?

悠人のお母さんが、少し遅れてやってきました。

いつも悠人がお世話になってます。

悠人のお母さんはお辞儀をしながら言いました。

レインボーばあば
レインボーばあば

悠人君のお母さん、お元気ですか?

ありがとうございます。まあまあです。

なんと❗️悠人と同じ答えとは!

レインボーばあば
レインボーばあば

何か心配なことがあったら、いつでも相談してね!

いつも気にかけていただいてありがとうございます。

お母さんはそう言って中に入って行きました。

レインボー塾では、早く来た子ども達は、ウエイティングルームに行って、好きな図鑑を見たり、ゲームをしたり、本を読んだりして始まるまで待っています。

保護者の方は、レインボーサロンで、お茶やコーヒーなどを飲んで、他の保護者と一緒に子どもを待っています。

何回かセッションが進むと、保護者同士も仲良くなっていきます。学校や家庭では言えないことも、サロンの中では同じ傷を負っている者同士の安心感からか、本音を言うことができるようになってくる保護者もいます。

レインボー塾での活動

レインボー塾に続々とメンバーが集まってきます。

今日は小学3年生のグループ(6人)が集まっています。

いつも私はSSTの様子を後ろから見ています。

スタッフとは別にオブザーバーとして参加しています。

子供達の様子やスタッフの対応などを観察して、後でスタッフ会議フィードバックします。

はじめのあいさつ

まず始めにリーダー(毎回希望制)が挨拶の言葉を言います。

今日は、涼太が希望しました。

涼太
涼太

これからレインボーSSTを始めます。みんな元気だった?

各自

レインボー塾の子ども達
レインボー塾の子ども達

元気だよ!ちょっと風邪気味。眠いけど大丈夫

それぞれに自分の気分や健康状態などを言います。

悠人は

悠人3
悠人

まあまあ元気かな?

 

と答えていました。

涼太が

涼太
涼太

おい悠人、いつもの元気はどうしたんだよ。

と心配していました。

ウォーミングアップ

次はウォーミングアップです。

プレイルームに移動します。プレイルームはフローリングの床がある広い部屋です。

ここでは身体を動かすサーキットトレーニングやゲームをします。

ドッジボールで事件が!

今日はドッジボールです。

6人が2つのグループに分かれて、柔らかいボールを使ってドッジボールをします。

悠人は涼太と渉とチームを組みました。相手は勝利、飛馬、匠です。

ジャッジはタロウさん、コーナーはマリコさんとジュンヤさんです。

ゲームが始まってしばらく経つと、勝利が投げたボールが悠人に当たりました。

その時涼太

涼太2
涼太

勝利、ズルイぞ!真ん中のテープ超えてたじゃないか。悠人、セーフだからな!

と大声で叫びました。

勝利は顔を真っ赤にして

勝利2
勝利

絶対超えてない!言いがかりだ。お前の目は節穴か!

と叫び返しました。

怒った涼太勝利の方に走りよりました。勝利涼太を睨んで詰め寄ります。

涼太2
涼太

節穴ってどういう意味だよ!ちゃんと見てたぞ!お前ずるいことしても勝ちたいのかよ。

勝利2
勝利

ちゃんと見てないからそんなこと言うんだ!俺は絶対、線を超えてないぞ!

殴り合いの喧嘩になりそうでした。

悠人2人の怒鳴り合いを呆然として見ていました

悠人3
悠人

これはデジャブか?

ジャッジのタロウさんが笛を吹きました。

真ん中で真っ赤な顔で睨み合っている勝利と涼太の方に行きました。

タロウさん
タロウさん

ちょっとタイムな。2人とも暴力を振るわないで我慢してすごいなあ。1人ずつ話を聞こうか?

鼻息荒く肩を震わせていた2人が、タロウさんの言葉で少し落ち着いたようです。

タロウさん
タロウさん

勝利、君の意見は?

勝利2
勝利

俺は悪くない。こいつが勝手に決めつけた。

タロウさん
タロウさん

涼太、君の意見は?

涼太2
涼太

勝利がズルをして勝とうとするから悪い。

タロウさん
タロウさん

うーん。そうか。

タロウさんは、2人の間にしゃがんで頭を抱えました。

タロウさん
タロウさん

それじゃあ、この問題はSSTで解決してみようか

タロウさんは2人に聞きました。

「良いよ。」2人とも渋々答えました。

その後、クールダウンのリラクゼーション(床の上に仰向けに寝て、音楽を聞きながら深呼吸をします)をしました。

この頃には、2人も一触即発の気配もなく、穏やかな顔に戻りつつありました。

SST ターゲットスキル 意見が食い違ったら?

プレイルームから教室に戻り、各自の席に座りました。

今日のSSTは「意見が食い違ったらどうする?」です。

ロールプレイ(コント)を見よう

先ほどのシーンを再現して見せます。

タロウさんがボールを投げて、マリコさんに当てます。

そこで、ジュンヤさん

ジュンヤさん
ジュンヤさん

今のは真ん中のテープを超えていたから、マリコさんはセーフ。

と言います。

タロウさん

タロウさん
タロウさん

絶対線を超えてない!お前の目は節穴か!勝手に決めるな!

と怒ります。

ジュンヤさん

ジュンヤさん
ジュンヤさん

お前こそズルしても勝とうとするなんて最低だ!

と怒って言います。

2人は真ん中でにらみ合います。

他の人、ユウコさん、ヨシ子さん、マリコさんは呆然とその様子を見ています。

考えてみよう

タロウさん
タロウさん

みんな、今のロールプレイを見て、どんなことを思った?

勝利2
勝利

線を超えてなかったんだから、言いがかりだと思う。

勝利が大声で言いました。

涼太2
涼太

いや、線は超えてたのだから、マリコさんはセーフだと思う。

涼太も大声で言いました。

悠人3
悠人

でも線を超えていたかどうか、僕は見てないからわからないよ。

ボールが当たった悠人が言いました。

飛馬
飛馬

どっちも譲らないんじゃあ、ゲームを続けられなくて迷惑なんだけど。

飛馬がぼそりと言いました。

渉

そうだよ、周りの身にもなってくれよ。もっと続けたいのに、途中で終わったし。

不満そうに渉が言いました。

タロウさん
タロウさん

匠はどう考える?

さっきから黙ってみんなを見ていた匠にタロウさんが尋ねました。

匠

僕は、どっちの気持ちもわかるんだよなあ。前に勝利と同じようにズルしたってクラスのみんなに責められて悔しい思いをしたことがあるし、正しいと思って言ったことで、またまたクラスのみんなに責められたんだよな。だからどっちが悪いっていうことじゃないって思う。

勝利
勝利

匠、良いこと言うね!

勝利が言いました。

涼太
涼太

本当にね。どっちが正しいかなんてわからないもんな。

涼太も渋々認めました。

タロウさん
タロウさん

すごいねえ、どっちが悪いってことじゃないっていう気づきはなかなかできないよね。みんなもそう思う?

悠人
悠人

冷静に考えてみれば、お互い自分が正しいと思ってるけど、違うかもしれないもんなあ。前に僕も勝利と同じで、相手に線を超えてたって責められて、怒って殴ったことがあるんだ。でも、今日見てたら、どっちが正しいのかわからなくなった。今は自分がやったこと本当に良かったのか・・・

タロウさん
タロウさん

どうすれば良いと思う?それぞれが自分の意見を言い張ったら、結局喧嘩になるよねえ。

勝利
勝利

見ていた人の意見も聞いたら良いと思うよ。誰かが線を超えてるかどうか見てたかも。

渉

でも、必死でドッジボールしてたから、よく見てなかったよ。

匠

そうだよ。ちゃんと見てたら言うけど、全然見てないから言えないよ。

タロウさん
タロウさん

そうか。みんなドッジボールに集中してたから、見てないかもしれないなあ。目撃者がいないんだから、どっちの意見もどれが正しいかわからないよね。こんな時どうしたら良いと思う?

渉

お互い様だから、「ジャンケン」で決めたらどうかな?僕の学級では『正直ジャンケン』っていうんだよ。

勝利
勝利

それは良いかも。でもジャンケンに負けたら悔しいよなあ。

涼太
涼太

お互いに殴り合うよりは良いかも。

タロウさん
タロウさん

悠人はどう思う?前に同じようなことがあったって言ってたけど。今はどうしたら良いと思ってる?

悠人
悠人

相手を殴ったり、ボールを遠くに蹴飛ばしたりしたのはマズかったかも。勝利と涼太を見てて自分がどんな風だったか何となくわかった気がする。ジャンケンってのも良いかもな。だってお互いに言い合っても同じことの繰り返しだし、早く決着をつけてゲームを続けないと、飛馬や渉が言ってたみたいに、迷惑になるしな。

勝利
勝利

僕も悠人に賛成。でもジャンケン以外にも何かあったら良いんだけどな。

涼太
涼太

そうだよ。僕ジャンケンがメチャクチャ弱いから絶対に不利だって。

タロウさん
タロウさん

ジャンケン以外で何が良いかまた考えてみよう。みんなも良いアイデアがあったら、今度教えてくれよ。でも今日のところはジャンケンで決めようか?

「良いよ」と2人が納得したので、ジャンケンで決めることになりました。

やってみよう

タロウさん
タロウさん

今日のところはジャンケンで決めることになったから、みんなでロールプレイをやってみよう。

悠人がボールを投げて、匠に当てました。(エアーボールです)

飛馬が

飛馬2
飛馬

悠人、今のは線を超えていたから、匠はセーフな!

と叫びました。

悠人が

悠人2
悠人

絶対線を超えてないよ。お前の目は節穴か?

と怒鳴り返しました。

飛馬と悠人が睨み合います。(またさっきと同じ展開か?)

飛馬が

飛馬
飛馬

それじゃあ、正直ジャンケンをしようか?

悠人も

悠人
悠人

良いよ。ジャンケンで決めよう。

2人はジャンケンをして、飛馬が勝ちました。匠はガッツポーズをしています。悠人は不機嫌な顔をしています。

タロウさん
タロウさん

今のロールプレイをした感想は?

飛馬3
飛馬

正直、怒ってる時に「正直ジャンケンをしよう」って言いにくいよな

 

飛馬が言いました。

悠人
悠人

そうだよ。なんか気持ちが落ち着かないと無理やりジャンケンしてる感じ。ロールプレイだからやったけど、なんか変な感じ・・・

匠

僕もそう思った。なんか納得いかないっていうか、後でモヤモヤする感じ

タロウさん
タロウさん

そうか。正直な気持ちを話してくれてありがとう。見ているみんなはどう思った?

渉

そうだなあ。やっぱり、怒っているときは無理かも。他の人が提案した方ができるかなあ。

涼太
涼太

でも、クールダウンが先だと思う。怒ってるときは、他の人が言ってもさらに怒りが増すだけだよ。

タロウさん
タロウさん

まず、クールダウン。それからジャンケンか。難しいけどやってみようか?

今度は、悠人と匠でもう一度ロールプレイを始めました。

2人で睨み合ってる時に、悠人が深呼吸を始めました。手は拳を握っていましたが、だんだん開いてきました。

匠も悠人が深呼吸をするのを見て、一緒に深呼吸をし始めました。

しばらく深呼吸を続けてから、

悠人
悠人

よっしゃ!正直ジャンケンをしよう。

悠人が言いました。

匠

良いよ。

2人はジャンケンをして、今度は悠人が勝ちました。

飛馬は2人を見ていて、深呼吸は良い方法だと思いました。

練習してみよう

今日はストラックアウトをすることになりました。

子ども達が作った段ボールのマトにボールを当てるゲームです。

テープの線が貼ってある場所からボールを投げて、箱に入った得点が一番多い人が勝ちです。

ジャンケンで決めた順番に、ボールを投げていきます。3回戦です。

子ども達は夢中で狙いをつけてボールを投げています。

途中で、がボールを投げたとき、

匠2

渉、スタートの線超えてるぞ

と言いました。

渉は

渉2

いや超えてないよ。得点も80点だったんだから!

と怒って言い返しました。

匠2

80点だってルールを守っていなければ、0点だからな!

 

と匠も怒り始めました。

その時悠人が

悠人
悠人

さっきやったばかりじゃん。クールダウンしてジャンケンだろ!

と言いました。

渉

そうだった。忘れてたよ!

匠

実際にゲームをしていると夢中になっちゃうからなあ。

2人はジャンケンをして、渉が勝ったので、80点で渉が優勝しました。

タロウさん
タロウさん

2人ともよく我慢してジャンケンができたね。悠人はよく気がついて、さっきやったことを思い出させてくれたよね。

振り返ってみよう(フィードバック)

タロウさん
タロウさん

今日のSSTで気がついたことや感想などを発表しよう。

悠人
悠人

僕は学校であったことを思い出してたんだ。あれは失敗だったなと今では思うな。今度からさっきみたいにクールダウンするよ。

涼太
涼太

僕もカーッとなったら突っ走っちゃう方だからクールダウンは大事だよね。

渉

意見が違ってもどうにかして決めないと喧嘩になることがよくわかったよ

匠

僕もすぐに決めつけられて嫌な思いをしてきたけど、今思えば・・・やっぱりどっちも自分の意見を譲らないと喧嘩になってしまうよなあ。

飛馬
飛馬

僕は誰かが喧嘩をするのはとっても嫌なんだ。大きな声とか苦手だし。だから、うまく解決する方法を考えてやってみたいと思う。

勝利
勝利

僕もみんなの意見に賛成だな。今日は喧嘩をしないで解決できる方法を考えたから花丸💮だな。

色々なやり方があると思うけどね。

タロウさん
タロウさん

スタッフから1人1人に、良かったところ、頑張っていたところのメッセージを言ってもらおう

スタッフから、1人1人の頑張っていたところや良かったところを発表して、振り返りは終わりました。

レインボータイム

今日のレインボータイムは、レインボーラーです。

同じ形、同じ大きさのヒノキの板を500個ぐらい用意して、好きな形を作ります。

匠は、とにかく高く積み上げています。最後は椅子に登ってバランスをとりながらそーっとのせています。

悠人はせっせと板を並べて、ドミノ倒しを作ろうとしています。

他の子ども達もそれぞれに楽しそうに作品を仕上げています。

さよならの握手

SST終わりの挨拶をしてから、子ども達が玄関ホールにやってきました。

悠人は晴れ晴れとした笑顔で、お母さんの所にやってきました。

お母さんもニコニコ笑っています。

実はさっき、お母さんが、私のところに来て

レインボー先生、レインボーサロンで他のお母さん達と話していたら、なんだか気持ちがスッキリしたんです。私と同じ悩みを持っているお母さんもいて、先輩のお母さんからはアドバイスをもらって、本当に嬉しかったです。

と話してれたんです。

レインボーサロンでは、よくこのようなことがあります。

学校や家庭では言えないことを、サロンに集まっている他の保護者が聞いてくれて、先輩(もっと大きな子どものいる保護者)からは、アドバイスをもらえるんです。

レインボーばあば
レインボーばあば

悠人、どうだった?

と私が聞くと、悠人はちょっと照れながら、

悠人
悠人

なんかわかんないけど良かったよ。今度トラブルになりそうな時うまくいくかも。

と嬉しそうに言いました。

レインボーばあば
レインボーばあば

良かったねえ。悠人が元気になって本当に嬉しいよ!また今度ね!

私は悠人とお母さんと握手をしながら言いました。

悠人
悠人

レインボーばあばも元気でな!

悠人は元気よく言いました。

2人はニコニコしながら駐車場に向かって歩いて行きました。

来るときは元気が無くて肩を落としていたのに、今は元気いっぱいで飛び跳ねるような歩き方です。

悠人もお母さんも元気になって本当に良かった。やれやれ・・・

レインボー塾のSSTが、少しでも子ども達の元気の元になることを願っています。

悠人のお母さんの赤い車が、坂道を下っていくのを眺めながら、『また今度ネコの仲間達に悠人の話をしないとね』と思っているレインボーばあばことマダムMでした。

 

とらネコ先生とレインボー塾の子ども達の話は、まだまだ続きます。

どんな子どもが出てくるのか?

どんなネコ仲間が登場するのか?

次回のお楽しみです!

 

 

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