第4話 とらネコ先生 挟まる(前編)友達に怪我をさせてしまった俊介の場合

第3話 とらネコ先生 ずり落ちるをご覧になりたい方は→こちらをクリック

私の愛するトラ猫「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃、私の身体に異変が!なんと!私はとらネコ「ミューニャン」に変身してしまったのです!!

こうして私は、昼間は「レインボー塾」の先生(通称レインボーばあば)として、レインボー塾に通う子ども達を支援し、夜はとらネコ「ミューニャン」通称マダムM)として、猫の仲間達と一緒に暮らす毎日を送るようになりました。

とらネコ先生とレインボー塾の子供たちアイコン

巨大マンション群のネコ仲間達

今夜は雲が月を覆っていて、何だかうす暗い夜です。

私は巨大マンション群のある所にやって来ました。

何棟もの10階建てマンションが立ち並び、この字に建っているマンションの間に、広い中庭があります。

西洋風のこの造りが人気を呼んで、マンションにはたくさんの人が住んでいます。

中庭は、タイルを敷き詰めた部分と、芝生の部分があります。

テラスのようになっている所には、カフェが入っていて、住民は安い値段で、ケーキも食べることができます。

西洋風のタイルを敷き詰めた場所には、錬鉄製のベンチが置いてあり、木々が木陰を作っています。今はポツンポツンとシルエットになっていますけどね。

おしゃれな中庭には、青々とした芝生が敷いてある部分があって、住民達は日向ぼっこをしたり、ピクニックをしたりして休日の昼下がりを楽しんでいます。

今は黒々とした影になっていて、街灯の明かりが届くところだけ鮮やかなグリーンが浮かび上がって見えます。

私は、芝生の上を歩いていました。

肉球が夜露に濡れて、ちょっと不快だけど、芝生の匂いは清々しくて好きです。

マンションのネコ達は、家の中で大人しくしている子が多いです。外を歩き回りたくても、何と言っても10階よ!どうやって降りてくるの?

中にはエレベーターをうまく使って降りてくるターシャのようなネコもいるけどね。

ターシャはK棟の8階に住んでいるマンチカンです。

時々ドアを抜け出して、誰かがエレベーターを使うのを待っています。住民がエレベーターに乗った隙に、堂々とエレベーターに乗って地上に降りて来ます。あっぱれです。

ターシャは服を着せられて、いつもオシャレをしています。でも、本人は内心嫌がっていて、脱ぎたくてしょうがないのです。

ターシャ
ターシャ

素敵な毛皮があるのに、何でこんなもの着ないといけないのか理解に苦しむわ。ウチの住人が趣味で作っているから、仕方なく着てるけどね。

というのが、本人の言い分です。

マイダーリンに服を作る趣味がなくて良かった!

1階のネコ達は、わりと自由に外に出かけています。

ベランダのフェンスの隙間から軽々と出て、歩道を歩いて来ます。

毛足の長いペルシャネコのシャルタンも1階に住んでいるので、今は中庭のベンチの上に座っています。

シャルタン
シャルタン

おや、珍しいねえ。マダムMじゃないか。

ずいぶん長い間姿を見せなかったじゃないか。心配してたんだよ。

シャルタンは長い毛を舐めながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

こんばんは。シャルタン。元気そうね。

相変わらず綺麗な毛並みねえ。ツヤツヤしてるわ

私がタイルの道を歩いていくと、

スルー
スルー

へえ。マダムMってまだ生きてたんだ。

と失礼な声が聞こえました。

キッとなって振り向くと、斑らネコのスルーが走りながらこちらにやって来ました。

スルーはスリムな身体で、どこでもスルーできるのです。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

生きてますよ。この通りね。元気ですよ。

私は少しムッとして言いました。

でも考えてみれば、スルーがそう思うのも無理もありません。

愛するとらネコ「ミューニャン」が天国に旅立ってから1年が過ぎた頃・・・

ううっ!悲しすぎる!ミューニャーーーーン!

私があなたの後を引き継いでいるから、安心して天国で安らかに眠っていてね。

眠るのかどうかわからないけどね。グスン。

また思い出してしまった!寂しいよお、ミュウニャーン

スルー
スルー

元気で良かったよ。それに相変わらず・・・

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

相変わらず何?

また同じ展開だ。誰もが同じことを言うのね。

スルー
スルー

いや、相変わらず逞しいねえ。

逞しいときたか。ブヨブヨだけどね。フン。

スルー
スルー

ところで、俺がくる時、ちびっ子の俊介がベランダのフェンスのところにいたけど、知ってる子かい?

スルーはシャルタンのいるベンチの下に移動しながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

俊介ならレインボー塾の『キッズSSTに通っている子だけど、今頃何でベランダにいるんだろうね?

私はスルーの後を追って、シャルタンの座っているベンチの横に行きました。

街灯が所々付いているので、中庭の遊具がぼんやり見えます。

ブランコが風に押されてユラユラ揺れています。

砂場には、子ども達の作った山やトンネルが残っています。

大小の鉄棒はシルエットになって、人が手を広げて立っているように見えます。

昼間は子ども達の歓声で活気付いている公園も、今ではひっそりとしています。

サブ
サブ

俊介は今日、幼稚園で問題があったみたいだよ。

そう言いながらマンションの陰から出て来たのは、1階に住むメインクーンのサブでした。

サブは昔は野良猫でしたが、危うく保健所に連れて行かれるところを今の家族に助けられたのです。

サブは俊介の家の向かいのマンションに住んでいて、俊介の家の様子が見えるのです。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

問題ってどんな?

私は心配になって聞きました。

俊介は幼稚園の年長クラスで、年齢の割には背が高くて、とにかくよく喋る子どもです。

動物が大好きで、本人もネコを飼いたがっていましたが、妹がネコアレルギーなので飼ってもらえなかったと言っていました。

俊介は大人顔負けの知識があって、色々な話をしてくれます。

幼稚園児なのに、字も読めるし、ひらがな・カタカナを書くこともできます。

図鑑や辞書が愛読書です。暇があれば、図鑑を見て知識を増やしています。

宇宙にも興味があって、人工衛星や星の名前も知っています。

あまりに頭が良すぎるので、他の幼稚園児と話が合わないのかもしれません。

お父さんは大学教授で、いつも書斎に入って難しい研究をしているそうです。

お母さんも昔は大学の研究室にいたそうですが、俊介を産んでからは、家で専業主婦をしているそうです。(これ、みんな俊介が話してくれたことです)

サブ
サブ

何って、よくわからないけど、お母さんが慌てて幼稚園に俊介を迎えに行ったらしいよ。

妹のリリカをお隣に預けて行ったから、相当時間がかかったんじゃないかな?

サブはリリカのことまで、よく知っていると感心しました。

俊介の妹のリリカは年少クラスで、俊介とは1歳違いです。

リリカは年齢よりも小柄で、線の細い印象です。

俊介が喋る分、リリカは物静かで、あまり話をしません。

人形遊びやままごとをするのが好きで、自分の世界にどっぷり浸かっているそうです。(これも俊介の言葉です)

シャルタン
シャルタン

いつ幼稚園から帰って来たんだろうね?

シャルタンがベンチの上で毛づくろいをしながら言いました。

よっぽど毛並みが気になるようです。

サブ
サブ

確か夕方遅くだよ。もう夕飯の時間なのに、お母さん、テーブルで頬杖をついてぼーっとしてた。何も作る気にならないみたい。

サブが詳しい情報を教えてくれました。

よっぽどのことがあったんでしょうね。お母さんがそんなに意気消沈しているんだから・・・

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

私、俊介の様子を見てくるわ。

私はベンチの横から、タイルの道を歩いて行こうとしました。

シャルタン
シャルタン

私もそろそろ帰るわ。

ベンチから飛び降りながら、シャルタンが言いました。

シャルタン
シャルタン

1階のチャミーにも聞いてみようか?

シャルタンはしっぽを立てて歩きながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

チャミーは俊介と同じマンションだからよく知ってるかもしれないわね。聞いてみてくれる?

私は三毛猫のチャミーを思い浮かべながら言いました。

チャミーは噂好きのネコです。

きっと色々な情報を持っているでしょう。

サブ
サブ

俺も向かいのマンションだから、見ていてあげるよ。

サブが颯爽と駆けながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ありがとう、みんな。

私はみんなにお礼を言って、タイルの道を俊介のいるマンションまで、足早に歩いて行きました。(本人はそのつもりだけどね)

マンションの間は、木が植えられていて、花壇には花が咲き誇っています。

綺麗に整備された歩道にはチリ1つ落ちていません。

とらネコ先生の災難

俊介のいるマンションは、中庭から少し離れています。

1階の部屋の電気は、もう消えている所が多くて、ひっそりとしています。

俊介の部屋の前に来ました。

暗いベランダに俊介がしゃがみこんでいるのが見えました。

フェンスの隙間から覗いてみると、俊介の顔は涙で濡れていました。

私は地面から伸び上がって、ベランダのフェンスに手をかけました。

シュンスケ
シュンスケ

あれ、お前見かけないネコだね。

そんなにでぶっちょじゃあ、ここには上がれないな。

俊介が私の手に触れながら言いました。

何ですって?ネコがこのフェンスを通り抜けられないとでも?

ネコは頭が入ったら、身体もすり抜けられるのよ!

でも、もしかして無理がある?

私は試しにフェンスの隙間に頭を入れてみました。

スルッ!入ったわ!ちゃんと通れたじゃない。

シュンスケ
シュンスケ

エッ!入る気でいるの?無理だよ。

お前自分の身体わかってる?相当でぶっちょだよ。

俊介はそう言いながらも、フェンスを抑えてくれました。

肩はどうかしら?頭が入ったんだから、肩も入るはず。

スルッ!キャー入ったわよ!凄い。

ここまでくれば、後はお腹を入れるだけよ!簡単簡単

えーッ!入らないわ。どうしよう!!フェンスに挟まっちゃったじゃない!助けてー

シュンスケ
シュンスケ

だから無理だって言ったんだよ。

お腹がつっかえて挟まっちゃったじゃないか!

俊介は大笑いして私を見ています。

見ている場合じゃないでしょ!挟まってるのよ!どうしたら良いの?

その時、スルーがそばを通りかかりました。

スルー
スルー

マダムM、悪いけど見ていられないね。

フェンスは端っこが少し幅が広いんだ。そこから入れば良いよ。

ニャーんニャーん

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そんなこと言ったって、ここから出るのが先よ!どうしたら良いのよ。

ニャニャニャオーン

スルー
スルー

お尻から下がれば良いんだよ。

後ろ向きに降りる感じでさ。

ニャーンニャン

スルーはアドバイスをしながら、私のしっぽを咥えました。

シュンスケ
シュンスケ

お友達が助けに来てくれたんだね。

優しい友だちが居て良かったじゃないか。

俊介は私の頭を撫でながら言いました。

そりゃあ優しい友だちがいて本当に良かったわよ。ここから出られればね。

私はゆっくりと後ずさりをするようにフェンスの間から出ようとしました。

お腹がつっかえているので、少しでもお腹を引っ込めようと思いっきり息を吸い込みました。

そしたら、スポッ!抜けたんです。やったわ!ガッツポーズね!!

お腹が抜けたら、次は肩、頭です。これは楽勝!

私は死ぬ思いでフェンスを抜け出しました。

どこも怪我はしていないみたい。こんな所で骨折していたら大変!

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ありがとう!スルー。あなたは命の恩人じゃなくて恩ニャンね。

ニャオーンニャン

スルー
スルー

大げさだなあ。フェンスに挟まっただけじゃないか。

まあダイエットをお勧めするけどな

ニャンニャンニャーン

シュンスケ
シュンスケ

良かったなあ。でぶっちょネコくん。フェンスから抜けることができて。

俊介が嬉しそうに笑いました。

ええええどうせデブネコですよ。こんな災難に遭ったのも、お腹の贅肉のせいですもんね。

こんな屈辱ってある?

スルー
スルー

フェンスの端っこだぜ。忘れるなよ。

スルーはその場を離れずに言いました。

きっと心配で、私がベランダに無事に上がれるのを見守ってくれているのでしょう。

さあ、気を取り直して!リベンジよ!(何に対するリベンジだか)

今度はフェンスの端っこを狙って入ることにしました。

フェンスの端っこは、確かにさっきよりも幅が広いように思います。

まず頭を入れて。これは大丈夫。肩を入れて。これも楽勝楽勝

最後はお腹よねえ。ムギューッ!フニフニ!ムギューッ!フニフニ

ハアハア、何とか通り抜けたわ!!!入ったのよ、私。

スルー
スルー

良かったな。

息を詰めて見守っていてくれたのか、スルーがふうッと息を吐きながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

本当にありがとう!感謝感激雨あられね。

ニャニャニヤ

スルー
スルー

チンプンカンプンだけど、お礼の言葉だよな?

良いってことよ。

俊介をよろしく!

ニャニャニャ、ニャオーン

スルーは意気揚々と帰って行きました。

レインボー塾『キッズ』 俊介の悩み

シュンスケ
シュンスケ

お前根性あるなあ。感心したよ。よく上がってこれたね。

俊介は私の頭から背中を撫でながら言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そうでしょうとも。あなたのことが心配で、頑張ったわ。

ニャーン

シュンスケ
シュンスケ

本当にデブッチョだな。お腹が下に着きそうだよ。何食べてるの?

幼稚園児とは思えない暴言!やはり只者じゃないわ。ニャーン

しばらく俊介は私の背中を撫でていました。ニャニャーン

私はベランダの床に腹ばいになって、俊介の手が背中で動くのを感じていました。

それから突然、俊介は怒った顔で

俊介2
俊介

幼稚園なんか大嫌いだ。幼稚だから。

と言いました。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そりゃあ幼稚園っていうぐらいだものね。幼稚ねえ。

ニャオーン

俊介2
俊介

お絵かきやお遊戯なんてやってられないよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そうでしょうね。図鑑を見ていたいものね。

ニャーン

俊介3
俊介

ブランコは好きなんだ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ユラユラ揺れるのって、気持ちいいわね。

ニャーンニャーン

俊介3
俊介

でも、ケンタのヤツが独り占めしてたんだ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

はあ、ブランコで何かあったのね。

ニャニャ

俊介は腹ばいになった私の肩から腕にかけて撫でました。

俊介2
俊介

ケンタなんて何にも知らないヤツなのに。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

??どういうこと?

ニャーンニャン

俊介2
俊介

動物のことも、植物のことも、宇宙のことも・・・なーんにも知らないのに威張ってるんだ。

そりゃそうでしょ。幼稚園児がそんなこと知ってる方がビックリよ。まだ5年ぐらいしか生きてないのに。

俊介は今度は私の肉球をプニュプニュしました。

これも気持ちいいのよね、プニュプニュ ニャーン

俊介2
俊介

今日だってケンタがいつまでもブランコを独り占めしているから替われって言ったんだ。

でもケンタは『お前は変人だから替わらない』って言うんだ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

なるほど、ケンタは俊介に変人って言ったのか。

幼稚園児がそんな言葉どこで覚えたんだろ?

ニャーンニャーンニャン

俊介2
俊介

変人って辞書で調べたら、変わった人ってことだった。

何が変わっているのかさっぱり分からないけど、だからってブランコを替わらない理由にはならないと思うんだ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ホント、何度も言うけど5歳児とは思えない発言ねえ。

あなた年齢をごまかしてませんか?

ニャーンニャーン

俊介2
俊介

だから、変人でもブランコに乗る権利があるって言ったんだ。

ヒエーッ!権利なんて言葉、小学生でも知らない子が多いんじゃない?

俊介2
俊介

でもケンタのヤツ、はあっ?って顔してるから、ブランコを貸してくれないなら奪うぞって言ったんだ。

俊介は肉球に触るのを止めて、今度は私の顎の下を撫でました。

そこは本当に気持ちいいのよね。ゴロゴロゴロゴロニャーン

俊介3
俊介

気持ちいいの?ゴロゴロって言ってる。

俊介は私の耳の後ろを指で掻くように撫でました。

ウーン良い気持ち!ゴロゴロゴロゴロ

俊介2
俊介

でも、ケンタは奪えるもんなら奪ってみろって言ったんだ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ニャルホド。何となくわかってきたわ。

ニャオーンニャン

俊介2
俊介

それで、ブランコを奪おうとしたら、ケンタのヤツ、ブランコから落ちて、ブランコの板で頭を打ったんだ。

血がドバーッて出てきて大騒ぎになったんだよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ヒエーッ!流血騒ぎですか?

それは大変!

ニャニャニャーニャン

俊介3
俊介

救急車が来てケンタが病院に運ばれてさ、先生は俺が悪いって決めつけてメチャクチャ怒ったんだ。

まあそりゃそうでしょ。頭を打ったんなら大変なことだものね。

命に関わる大ごとですよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

ニャニャニャニャーンニャオーン

俊介3
俊介

お母さんが幼稚園の園長に呼ばれて、いろいろ言われたみたいなんだ。

もうあなたを育てる自信がなくなった』って言われた。

俊介は私の首に腕を回して頰をすり寄せて来ました。

私は俊介のほっぺたを舐め舐めしました。ナメナメニャーン

俊介3
俊介

くすぐったいなあ。お前の舌ってザラザラしてる。

どっかで聞いたセリフ。ああ悠人もそんなこと言ってた。

(第3話 とらネコせんせい ずり落ちる→こちらをクリック)

俊介3
俊介

ケンタは病院で頭の手術を受けたんだ。頭に血の塊が出来てたんだって。

お母さんは、僕の顔も見たくないって。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

そんなことを言われたんだ。辛いよね

ニャニャニャニャオーン

私は俊介のほっぺたを舐めたり、手を舐めたりしました。

お母さんが大好きな俊介です。

顔も見たくないなんて言われたら・・・私だったら死にたくなるほど悲しいわ。

俊介3
俊介

お父さんはまだ帰ってないけど、きっと帰って来たら叱られる。

俊介は、私を抱こうとしました。

でも、重すぎたのか抱くことはできませんでした。ニャニャニャ?

俊介3
俊介

お前ホント重いなあ。抱っこしようと思ったのに・・・

俊介はベランダの床に座って、私を膝の上に乗せようとしましたが、私は半分ずり下がった形になってしまいました。

エーッ!それって私が巨大になったみたいじゃないの!

重すぎて抱けないなんて、なんたることよ!ニャニャニャ?

それでも、俊介のお腹はあったかくて、ずり下がっていても一緒にいるって感じです。

俊介3
俊介

僕、本当にケンタをブランコから落とすつもりなんて無かったんだ。

ただ、ブランコを奪おうとして・・・でもやっぱり僕のせいだよね。

俊介は私の目を見つめながら、言いました。ニャオーン

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

辛いよね。悲しいよね。

自分はそんなつもりじゃなくても、相手に怪我をさせてしまったんだもの。

ニャーンニャオーン

俊介3
俊介

お前、僕の気持ちわかるの?お前だけだよ。みんな僕が悪いって言うんだ。

先生も、園長先生も、お母さんも・・・もう幼稚園に行きたくない

俊介は私を抱きしめながら言いました。

可哀想に。思わぬ惨事に本人も深く傷ついているのです。

俊介3
俊介

この家も出て行かなくちゃ

お母さんに顔も見たくないって言われてるし・・・お前一緒に行く?

えーっ!それはやめておいた方が・・・5歳児の家出がうまくいくとは思えないわ。

どんなに賢くても俊介はまだ幼稚園に通っているのよ。

マダムM(とらネコ先生)
マダムM(とらネコ先生)

お家にいるのが一番です!

ニャニャニャニャーン

俊介3
俊介

ダメって言ってる?

やっぱり無理があるよね。お金もないし・・

俊介と半分ずり下がって抱かれている私は、しばらくフェンスの外の木や歩道や花壇を見ていました。

ガラガラッ、ベランダのガラス戸が開く音がしました。

俊介のお父さん
俊介のお父さん

俊介、入りなさい。話を聞こうか?

俊介のお父さんが言いました。

俊介は私をギューっと抱きしめました

まるで、溺れた人が命綱にしがみつくように。

俊介のお父さん
俊介のお父さん

おや、その大きな物体は何だね?

お父さん、それは失礼ってものよ。大きな物体って。ネコですよ!

俊介3
俊介

このネコ、フェンスの間をすり抜けようとして、フェンスに挟まっていたんだ。

おいおい、それを言う?忘れかけていた屈辱の瞬間を!

俊介のお父さん
俊介のお父さん

ネコかい?随分大柄だなあ。

でもリリカにアレルギーがあるから、ネコは置いて来なさい。

服の毛も払ってな。

お父さんは静かに言いました。

怒っているようには見えませんでした。

俊介3
俊介

わかった。

でぶっちょネコちゃん。

一緒にいてくれてありがとう。

そう言って俊介は私の頰にキスをしました。

キャーッ!若い男にキスされた!って5歳児ですけどね。

俊介のお父さん
俊介のお父さん

こっちに渡してごらん。

俊介はお父さんに私を預けました。

お父さんは、私をそうっと抱いて、フェンスの外に出してくれました。

俊介のお父さん
俊介のお父さん

また、挟まったら大変だからね。気をつけてお帰り。

お父さんはそう言って、俊介と一緒に部屋に入って行きました。

お父さんは俊介の話を聞いてくれるんだろうか?

穏やかで優しい感じだったけど、人は見かけによらないって言うし。

 

そんなことを考えながら、中庭のベンチまで歩いて行きました。

シャルタンが座っていたベンチに見覚えのある人影が・・・

マイダーリンです。

駐車場にいるのかと思ったら、ベンチまで迎えに来てくれたんだ。ありがとう!ニャーン

ケンゾウさん(ダーリン)2
ケンゾウさん(ダーリン)

おや、もう用事は済んだのかね?

そろそろ帰ろうか?

雨が降ってきそうだよ。

さあおいで。

マイダーリンが私を抱き上げながら言いました。

ケンゾウさん(ダーリン)2
ケンゾウさん(ダーリン)

今日はどんなことがあったのかね?

俊介のことがとっても心配です。何かできることはないかしら

ダーリンの暖かい胸に抱かれながら、どうしたら俊介を救えるのか?考えているマダムMでした。

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